定期的に通う美容サロン、ネイルなど、美容を楽しむ人は多いだろう。しかし、障がい者にとって美容サロンへ行くこと自体、困難であることを知っているだろうか。
美容サロンだけではない。美容技術を学ぶための専門学校への入学、美容職を目指すこと自体、障がい者にとっては難しいのが現状だ。
今回は、障がい者向けの芸能や、美容事業を行う株式会社accessibeautyを設立した臼井理絵さんに話を聞いた。
なぜ、障がいのある方に向けた会社を設立したのか。臼井さんの思いに注目してほしい。
障がい者の就労選択肢を広げたい
能力があるのに学びの場がないことで、人生の選択肢が限られてしまう障がい者がいる。
会社設立前の2年間、障がいのある方にネイル技術を教えるボランティアをしていた臼井さん。障がい者が技術を習得し、スキルを就労に結び付けてほしい思いでやっていた。
しかし、技術を身につけた先、企業就労に繋げることができなかった。“障がい者”ということだけで、1人1人の実力や可能性を理解してもらうこと自体、難しい社会なのだと知ることになる。
企業に障がい者の可能性を知ってもらうには「私も企業にならねば!」という思いで臼井さんはaccessibeautyを設立した。
設立後、障がい者モデルを確立させる
障がい者の可能性を社会に届けたい…美容業界で生きてきた自分に何ができるだろう。臼井さんは、“障がい者モデルの確立”に踏み出した。
美容を楽しみ、自己表現したいと望む当事者を被写体に、社会にフックをかけていこうという試みだった。
そうして、美容業界の仲間たち(ネイリスト、ヘアメイク、スタイリストなど)と立ち上げたのがInstagram上のWebマガジン「ポルテマガジン」だ。
障がい者イメージを払拭するスタイリッシュな写真作品をきっかけに、障がい者モデルの認知が上がり、自社で開催するモデルオーディションには毎年100名以上の応募者が参加する。臼井さんはオーディションを通し、当事者たちのさらなる可能性を感じ、障がい者専門芸能事務所「アクセシビューティーマネジメント」の設立に至る。そして、障がい者モデルとしてのオファー、俳優としてのキャスティング、トークショーや講演などの仕事が増えていったという。
現在事務所には、筋ジストロフィーなどの車椅子ユーザー、聴覚、視覚、発達、知的、四肢欠損、高次脳機能障害など、さまざまな障がい当事者が在籍する。
自社が運営するスクールでは、プロのモデルが指導するポージングや、脚本家による演技などの技術レッスンだけでなく、プロ意識や芸能知識も合わせて学ぶことができる。
「カルチャースクールだと意味がないと思っています。学んで満足するのではなく、現場で通用する人材を育成する必要があるので、レッスンに参加する姿勢から教え込んでいます。1人ひとりが、1歩先の未来を体現する先駆者として、誇り高く向き合っている姿が嬉しいです」と臼井さんは語る。
accessibeautyは芸能をやるためだけに芸能事務所をつくったわけではない。あくまでも就労選択肢の拡大、障がい者の未来づくりの手段として取り組む会社だ。所属者には「同じ悩みを抱えている方に勇気を与えたい」「もっと良い社会に変えていきたい」と思っている方たちが多く、モデルや俳優として活動したいというだけでなく、自身の障がいについて広めていきたいという人が多い。
臼井さんは所属者やその家族からこんな言葉をもらうことがある。
「アクセシビューティーと出会えたことに感謝したい」
「事務所に入らなかったら、こんな自分にはなれなかった」
「障がいがある自分もいいなと思えた」
障がい者の人生に確実に良い影響を与えていると言える。
自分自身を叶えられる場所として、次世代に繋げていきたいと考えている。
今年はすでに3本のドラマ出演が決定
アクセシビューティーマネジメントは今年、既にドラマ3本への出演が決定していて、所属者4人が出演予定だ。
その中の1つはなんと、大河ドラマ。映画や舞台、ファッションショー、企業CM、当事者ならではのアドバイジング業務等、日々事務所へのオファーは絶えなくなってきている。
「当事者が参加できる環境が増え、日本が変わり始めていることを嬉しく思う」と臼井さんは語る。
臼井さんは日頃から所属者に「当事者だからという理由でキャスティングされるのはあと数年だと思え!」と伝えているという。これは、技術・知識・経験ともにプロになって行かなければならないと考える臼井さんの愛の鞭といえるのではないか。
「挑戦できる場所があるよ」
2年前に事務所ができたとき、実績はなかった。当初は「みんなで一緒に作っていこう!」と動いていた。これから所属する人には、これまで2年間歩んできた先輩たちの背中を見せることができる。
「挑戦できる場所をつくり続けるので諦めないで、オーディションやスクールで待っています」と臼井さんは伝えたい。
今年は芸能事務所の拡大と共に、美容サロンの開設も計画中で、努力次第で活躍できる社会になるようアプローチしていきたいと語る臼井さん。
「障がいがあっても、こんな風に生きていけるんだ!」とaccessibeautyを知った人の障がい者概念がアップデートされていくことを目指している。そしてその拡がりが、大きな社会変化に繋がると信じている。
accessibeautyが新たな風を起こす姿に、ぜひ注目していきたい。