学校の先生に対してどんなイメージがありますか?「お世話になった」「怖かった…」など、先生ごとにエピソードが残っているのではないでしょうか。
大阪市立豊仁小学校に勤務している現役教師の松下隼司さんは教師歴21年です。松下さんは、「教師=ブラックのイメージをなくしたい」という思いから、音声メディアVoicyにて、今までの失敗談やアンガーマネジメントについての発信をしています。Voicyを始めるに至った経緯や、松下さんの教員生活について話を聞きました。
「すごい仕事だな~」
松下さんが「学校の先生になりたい」と思ったきっかけは3つありました。
1つ目は、特別支援学校で働く母の存在でした。松下さんの母の元には毎年、お正月になると教え子からたくさんの年賀状が届いていました。年賀状の中には、かつての教え子さんからも届いていたとか。
年賀状には、内容の濃い文字がびっしりと書かれており、松下さんは自分がもらう年賀状の厚さや内容と見比べて、「すごい仕事だな~」と母親の仕事を尊敬していました。
2つ目は、松下さんが小学校5、6年生の時の先生の影響でした。女性のママさん先生で、厳しくもあたたかい先生だったそうです。
当時、松下さんの友達にとてもやんちゃな子がいたそうですが、その担任の先生が「私の息子にしたいな~」とその子に言っていたのを今でも松下さんは覚えており、時折思い出すそうです。
「一見、手のかかるお子さんに私は教師として愛情をもって接することができているかと見つめ直すことがあります」と松下さん。
3つ目は、松下さんが高校生3年生のときに放送されていた『みにくいアヒル』という、小学校を舞台にしたドラマの影響です。岸谷五朗さんが演じる不器用な小学校教師、ガースケ先生に憧れたそうです。
このドラマを観て教師になるイメージをしながら、大学の受験勉強をしていたとのこと。
教師=ブラックのイメージをなくしたい
「確かに教員は過酷なところもあります」と松下さん。
毎日の休憩時間はちゃんと設定されているそうですが、休憩時間中だからといって、本当に毎日45分間、休憩している先生を1人も見たことがないそうです。
休憩時間中に家庭訪問、期末個人懇談、研修や出張があることもあり、休憩時間を使わないと間に合わないことも。松下さん曰く、「休憩時間中に明日の授業の準備や、行事の準備や、校務分掌の仕事や会議の資料を作成できたらその日はうまく仕事がまわっていると思ってしまいます…。私が教師になった21年前からこれが当たり前です」とのこと。
こんなにも大変なのに松下さんが教員を続けられるのは“子どもたちのため”。少しでも楽しい授業、学級、行事を作れるよう健闘されています。全国の先生方も子どもたちのためという思いを大切にされて働かれているのではないでしょうか。
大変でも「めっちゃ楽しい」
「1番の魅力は、なんといっても『子どもたちと過ごす時間、毎日が、めっちゃ楽しい』ということです」
子どもの成長は本当に早く、身体面、精神面もどんどん成長していきます。テレビのドラマ以上の、ドラマ(感動)を感じられるのが魅力だそうです。
ある日、松下さんが朝教室に行くと、登校してきた子どもたちが教室や廊下で声を掛け合っていました。
「〇〇さん、ハッピーバースデー♪」
「〇〇さん、誕生日おめでとう!」
とても自然に声をかけ、拍手をする光景にとても心が温かくなり癒された松下さん。この光景に松下さんは、大人であり、子どもに教える立場である教師、私自身はどうか?と改めて考えさせられたといいます。
「一緒に働く同僚に、『誕生日おめでとうございます』と言っているかな?“人を大切にする”行動の一つに、誕生日を祝うことが挙げられます。私は、言っていないどころか、同僚の誕生日すら知らなかったんです。子どもの言動から気づきました」
子どもたちの何気ない言葉や行動から学ぶこと、気づくことが本当に多く、大人になって失われた子どもの感性に触れられるのが教師の魅力として松下さんは挙げています。
失敗からアンガーマネジメントを学ぶ
今から10年以上前、松下さんが6年生を担任した時のエピソードです。
クラスのやんちゃな男子が女子を泣かせた出来事がありました。松下さんはこのことに対し、大声で叱りました。次の日、叱られた男子は学校を休んでしまったそうです。
松下さんは、「やんちゃな男の子だから厳しく叱っても大丈夫だ」と思っていた自分の過ちに気づき、自分の過ちを素直に認め、男子と親御に謝罪しました。
この件をきっかけに、「自分自身の対応の仕方を改めないと、子どもを傷つけてしまうことになる」と感じた松下さん。怒りの感情をコントロールできるよう、アンガーマネジメントを勉強し、アンガーマネジメントキッズインストラクター、ファシリテーターの資格を取られたそうです。
アンガーマネジメントには、「アンガーログ」(怒りの記録)という方法があります。松下さんは子ども対応で、失敗したことを記録するようにしているそうです。>
子ども同士のケンカ、暴言への対応などで上手くいかなかったことを記録することを続けていると、同じ対応の失敗が減ったとのこと。そして、「次に同じようなことがあったら」と考えて、事前に対応を考えるようになったそうです。
上手くいった対応も記録していると、上手くいった対応には、「笑い」や「楽しさ」という共通点があることが分かったそうです。
例えば、友達に暴言を言ってしまい、癇癪を起している子どもに問い詰めても、その子どもは余計に心を閉ざしてふさぎ込んでしまうことがありました。しかし、「年齢は?今、何歳?」と、まったく関係のない質問から入ると、子どもが心を開いてくれることがあったそうです。
子どもは驚いた反応と笑顔を見せたとのこと。感情的になっている子どもの気持ちが十分にほぐれ、落ち着いてからトラブルに関しての話題をするのがいいと松下さんは気づきました。
忙しい中資格も取られ、子どもたちと向き合う姿は教師の鏡と言えますね。
「少しでも役に立てれば」
松下さんは、教師の働き方で、しんどい思いをされている先生方の元気や活力、教師=ブラックと思い教師になろうか悩まれているかたのお役に少しでも立ちたいと思い、今年10月から『しくじり先生の「今日の失敗」』というチャンネルでVoicyを始めました。
松下さんは普段とても言葉数が少なく、生まれ変わり教師以外の職業に就くなら、「木こり」になりたいと考えています。また、教師として、人として、「話す力」を少しでも高めたい、自己研鑽の気持ちもあってVoicyを始めたそうです。
「教師の「失敗」を伝えることで、聴いてくださった方が少しでも私のような不用な失敗を回避できたら嬉しいです。学校の先生方やお忙しい方にとって、Youtubeのように画面ありきではなく、聴き「ながら」で気楽に楽しんでいただけていいなと思います」と松下さん。
教員の方へ伝えたい
「ご自身の心身の健康をまず大切にしていただきたい」
松下さんが一番伝えたいことです。
「子どもの笑顔のために」と、仕事を突き詰めていくと時間がいくらあっても足りず、家でも、休日も仕事をしたりする教員の方は多いかと思います。
その内、自分の気づかないうちに我慢をため込んで、心身に無理がきます。
松下さんには今、2人の子どもがいます。学校の子どもと過ごす時間は、自分の子どもと過ごす時間よりも長いですが、ご自身の家族を大切にしていただきたいとのこと。
松下さんには家庭と仕事の境目を見失い、仕事を優先した結果、家族につらい思いをさせた過去もあります。そうした失敗も記録し、以前より自分の心身や家族を大切にできるようになったそうです。
自身の心身の健康とご家族あっての仕事。私のような失敗をしないでほしいと思います。とのことでした。
大変な分やりがいや達成感が得られる教員。これから教員になりたい方は、松下さんのチャンネルを聞くことで勉強になることが多数あるでしょう。