体奏家・ダンスアーティストとして活動する新井英夫さん。年齢・国籍・障害等を超え、多様な人々と身体表現でつながるワークショップも行っている。だが、2022年夏にALS(筋萎縮性側索硬化症)の診断を受けた。徐々に身体が動かなくなる中、より多様な人々と身体表現でつながり、障害者の社会参画にも取り組む新井さんの活動について伺った。
20代のころ劇作家・寺山修司の影響を受け、仲間と共に劇団『電気曲馬団』を始めた新井さん。大道芸のような投げ銭の野外劇など、街に積極的に関わるユニークな活動を行った。
その後、野口体操という「自然から学び、力を抜く」身体メソッドに魅了され、ダンスの世界へ。1997年に海外のダンスフェスティバルに参加した際、ダンスが言葉を超えたコミュニケーションや他者理解・多文化共生の手段となりうることを体感したという。
その気づきをもとに、舞台活動との両輪として、非言語の身体表現で人と人をほぐしてつなぐワークショップを、2002年頃から子どもから高齢者まで幅広い世代を対象に行うようになる。
障害がある人たち、生きづらさを抱える人たちに向けて、福祉施設や児童養護施設・子ども食堂などの現場にも、近年多く出向いている。
そんな中で、新井さんに大きな転機が訪れる。指定難病であるALSと診断されたのだ。治療法はまだ無く、体を動かす筋肉が徐々にやせていき、力が入らなくなる病気だ。2022年の夏のことだった。
「2021年の秋頃から身体の調子がおかしいと感じていました。告知を受けたときはお先真っ暗(笑)・・・。今までやってきたのが身体を使った活動だけに、それが全部できなくなると」
「治療法があるなら専念したいけど。これからどう生きる、いつ死ぬ? 今でも心は揺れるんです。でも、何もしないよりは、自分ができる社会参画の方法を工夫しながら続けてみようと思い直しました」
無くなった仕事もあったが、正直に今できることを伝えたところ、できる条件の中でやりましょうと言ってくれた人たちもいた。
「当初は、相手に迷惑をかけているのではという申し訳なさがありました。でも、ちょっと引いた目でみると、協力してくれている周りの人たちが、私と関わることで新しい気づきを得ているとも言えるのではないかと」
今年1月には、香川県の丸亀市役所の依頼で、市民会館のリニューアルに向けて、ファシリテーターやコーディネーターを養成する市民講座で、ワークショップを行った。
「市役所の方に『新井さんが来てくれることですごく学びになりました、丸亀に車椅子で入れる飲食店がこんなに少ないとは気づかなかった、市民会館の運営にも生かします!』と言われて、とても嬉しく思いました。障害や生きづらさがある人の存在が、他の人の気づきを促す。そこから再構築される社会はみんなに優しいはず。この考え方は、これから自分が生きていく希望の一つになると思っています」
ALSの影響で、日々できなくなることもある。そんな中で、ワークショップの際のスタッフを増やしたり、ビデオ会議システムや電動車椅子といったテクノロジーの力を活用している。
「例えばみなさんは商店街を歩いていて、このお店面白いなってぱっと振り向いて、立ち止まって商品を手に取ることができますよね。車椅子を押してもらっているとそれができないんですよね。『すみません止まって、ちょっと向きを10cmずらして』と人にいちいち頼まないといけない。自分も介助者もめんどくさい(笑)。すると我慢するようになります。自ら遠慮と妥協で小さく硬くなっていく。助けてもらって文句を言うのもなんですが、人に頼るのも楽じゃない! と身に染みました。自分で運転して電動車椅子で初めて散歩に行った時、ふと止まって夕日をすっと振り向いて見た瞬間、これ何か月もできてなかったんだなあと、それだけのことで泣けてきちゃいました。テクノロジーで自己決定権を担保したり筋力の衰えを補ったり、これは大変ありがたいですね」
新井さんはフリーランスとして事業を続けている。その中で、障害がある人の就労について、課題も感じている。
「障害があっても、就労の際には生活介助や身体介助や移動支援が適用されないという国の基本設計があります。余暇活動は良いけれど経済活動はNGだと。僕がワークショップのために介護ヘルパーさんを雇うことは、自弁になるか依頼側が費用を出すことになる。本当にそれでいいのかなと。海外のように働きたい意欲のある障害者が就労し、社会参画しやすい福祉制度の方がいいんじゃないかと強く思います」
様々な工夫をして、ALSと共に生き、表現活動を続ける新井さん。その活動の幅は、より多くの人々を結びつけるものへと広がりを見せている。
「病を得たからこその活動をやりたい。ALSに限らず難病や障害で在宅で暮らしている方たち、施設や病院で暮らす方たちのことを自分と重ねて思います。この人たちのコミュニケーションや社会参画を助けるワークショップができないかと。生産性だけで人を判断する価値観に対して、オモシロく柔らかく異議申し立てしたい。障害や生きづらさを抱える人たちお一人お一人を、顔の見えるユニークでかけがえのない存在として、多様な表現手段で社会に繋ぎなおしてみたいのです。自分もその当事者のひとりとしてなんですが」
新たな取り組みとして、病気や障害で外出が難しい人たちとオンラインで簡単な身体表現を通してつながる試みを、新井さんが利用している訪問看護ステーションと連携して進めている。また、埼玉県小児医療センターで、難病の子どもたちとYouTubeの動画番組を作る取り組みも始めている。これからも、様々な壁を超えて心と身体で人々をつなぐ新井さんの活動に注目だ。