百貨店・デパートで冬場によく開催される駅弁大会のなかでも、京王百貨店新宿店で例年1月に開催される「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」は、国内最大級の開催規模から「駅弁の甲子園」とも呼ばれています。ふだんは各地方で駅弁などを販売する業者も、店頭で調理実演を行うために大挙して上京。58回目の開催となる2023年1月の同大会では、約300種類の駅弁と57店舗の“うまいもの”(各地方のお惣菜やスイーツなど)を1フロア(7階・大催場)で楽しめるとあって、期間中は新宿店の来客数が2・3割も跳ね上がるほどの賑わいを見せます。
京王百貨店のほかの催事と比べても開催規模が大きく、店を挙げて盛り上げるという駅弁大会の裏側を売場マネージャーの横山和正さんに取材、緊張感が走る開店前の様子について聞きました。
店・商品の発掘は休む暇なし! 百貨店が総出で行う駅弁大会
2023年1月の開催で58回目を迎えるこの大会ですが、「50年連続販売個数1位」で殿堂入りを果たした北海道・森駅駅弁「いかめし」の阿部商店は第1回から参加。ほか長らく出店を続ける業者も多く、長年築き上げてきたパイプの太さが、“京王の駅弁大会”の強みと言えるでしょう。
しかし実演販売の店舗は、既存店だけでなく新しい店舗・新しい商品を毎年呼び込む必要があり、全国の駅弁・うまいもの探しに余念がないそうです。時には元・催事担当者や旅行好きな他部署の社員の情報が役に立つ時もあり、また各地の情報から「これだ!」という業者が見つかると、開催期間中にもすぐ次回の商談に入るのだとか。
中には、今年(2023年)に行われている「越前大野 九頭竜まいたけ弁当」実演販売のように、まったく偶然の出会いが出店に繋がることもあります。
この弁当はふだんは駅弁を販売していないJR越美北線・九頭竜湖駅の駅弁として、この大会のために開発されたもの。京王百貨店の担当者は他の目的地へ向かう途中に、たまたまこの駅に立ち寄ったそうです。しかしこの駅には道の駅や各種直売所が併設され、列車の発着が1日5往復のみの終着駅とは思えない賑わいを見せています。特産品のまいたけや地物の野菜が豊富に揃うこの場所で働く人々と話し交流を持ったのちに、今回の実演を担当する地元の弁当業者「福結び」と共同での商品開発・実演販売に至ったそうです。なお、この駅弁は2023年3月までの期間限定で、実際に九頭竜湖駅の駅弁として予約販売が行われます。
またこの大会では、本来の持ち場である催事担当だけでなく食品部・販売促進部など他部書からの応援、販売応援・アルバイトも含めて、2週間でのべ1000人以上もの人々が関わるそうです。かつては連日各店舗の販売まで手伝ったことから、食品と関係のない社員と駅弁業者の繋がりが生まれたこともあるのだとか。
開店時間は朝10時! ちょっと“ピリピリ”な開店前に密着
この駅弁大会では売り切れ必至の人気商品も多く、開店の3時間前から冬の厳しい冷え込みに耐えつつ、正面玄関前に並ぶ人々も。そのころ店内では、来客を迎える準備ですでに熱気あふれる状態。ふだん見ることのない「駅弁大会初日・開店前」の様子を見てみましょう。
開店45分前に行われる朝礼では、伝達事項を業者に伝える横山マネージャーもやや緊張した面持ち。一方で各ブースでは仕込みや調理作業が着々と進み、数人の担当社員が仕込みの進捗具合をこまめにチェックしている様子です。
なお京王百貨店の実演では、あらかじめの指定通りに米を炊く炊飯業者が別に存在し、店内の実演ブースの大半は盛り付け作業に専念できる環境が整っています。
そしてこのあたりから、各地方から東京に発送された「輸送駅弁」が多量に到着。人海戦術で陳列が始まります。
外で待っていた人々は順番に店内に案内され、10時ちょうどに開店。ここから夜8時の閉場まで、社員・スタッフや各業者は笑顔で来客の応対を続けます。
駅弁大会などの催事運営を担当する部署の事務室には、駅名標を模した「さいじたんとう」(催事担当)の看板がかかり、鉄道会社(京王電鉄)を親会社にもつ百貨店ならではの、鉄道イベント・駅弁大会へのこだわりを窺わせます。
フロアを一周しただけで旅行気分を味わえるフロアや丁寧な接客は、百貨店・業者が手を取り、長らく積み上げてきたノウハウに支えられていました。