「スパイスで街を元気に」というキャッチフレーズで、岡山県真庭市を舞台に活動する小柳堅策(おやなぎけんさく)さん。
筆者と同じく地域おこし協力隊(以下、協力隊)として真庭市に移住した「先輩」でもあります。
2022年9月に任期を終えた小柳さんの活動には、地域の声に耳を傾けて生まれたストーリーがありました。
順調な滑り出しもコロナの影響で…
小柳さんは、2019年4月に協力隊に着任し、1か月ほどでスパイスカレー専門店の「AREAREA(あれあれあ)」を真庭市内にオープンします。元々は釣具店だった勝山町並み保存地区にある空き店舗を利用し、営業日以外には地域イベントの活動場所として提供もしていました。
協力隊活動としては順調な滑り出しでした。しかし、コロナ禍で小柳さんの店も休業を余儀なくされました。
不安定な営業が続くなか、小柳さんは、客にヒアリングを行い改善策や打開策を模索。また「スパイス香辛料ソムリエ」の資格を取得し、スパイスへの理解を一層深めました。
ヒアリングを重ねていくと、「味が濃くて年寄りには向かない」という高齢の人からの声や「もっとカレーの種類があると選べてうれしい」「スパイスカレーが食べたい」といった意見が出てきました。
そこでたどり着いたのが、南インドの定食スタイルである「ミールス」です。
ミールスとは、菜食料理をメインにした定食のことで、米を中心に、豆や野菜を使った料理が並び、日本人にも共通する食事のスタイルです。
また、ドリンクにもラッシーやチャイを取り入れました。
地域の声に耳を傾けた「街のスパイスプロジェクト」
コロナ禍での試行錯誤は別の副産物も生み出しました。
隣町の津山市でフードバンク活動や子ども食堂、学童支援をしているNPO法人から、真庭市内でも子ども食堂を開きたいという依頼が舞い込みます。
スパイスの健康効果を地域の人に知ってもらいたい。スパイスを通じて地域を活気づけたい。そういった思いもあり、小柳さんは二つ返事で引き受けます。
スパイスの量を調整した辛さ控えめのカレーを子どもたちに振る舞い、高齢の人には、アルツハイマー型認知症への予防効果があると言われるターメリック(日本名は「秋ウコン」)を使ったスパイスカレー、同じく予防効果のあるトリゴネリンが含まれるコーヒーをセットにして提供するなど、健康食とも言えるカレーをスパイスの効果とともにアピールしていきました。
協力隊を卒業しても刺激を与え続けている
協力隊活動を通して得られた経験を生かし、2022年4月には2店舗目となる「Spice Bar 升(ます)」をオープンさせます。
小柳さんの故郷である新潟県と真庭市の地酒の飲み比べができることや、都市部でも珍しい独自のルートで仕入れた酒類を扱うこの店は、世界に星の数ほどあると言われる酒類をもっと知ってほしい、体験してほしいと感じたことがベースにあります。また、料理も故郷や真庭市の食材を使用したスパイス料理をメインに提供。地域のサードプレイス的存在にもなっています。
前職はバーテンダーでもあった小柳さん。
これからは酒とスパイスを通じて、おもてなしを続けてくれるでしょう。