瀬戸内国際芸術祭2022秋会期開幕を直前に控えた週末、香川県丸亀市の商店街に巨大なすごろくが登場しました。
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)とクリエイティブユニット「tupera tupera」によるアートプロジェクトで、9月24日にオープニングセレモニーが行われました。
それに先駆け、tupera tuperaの亀山達矢さんと中川敦子さんにインタビュー。今回のプロジェクトのこと、創作活動で大切にしていること、創造性を養う子育てのヒントについても聞きました。
−tupera tuperaの活動について教えてください。
亀山さん)
今年で結成20周年になります。展覧会やイベントをはじめ、さまざまなものづくり活動をおこなっています。例えば企業やブランドからお声がけいただいてパッケージデザインを考えたり、食器をデザインしたり、空間を作ったりしています。tupera tuperaの活動のなかで自発的にやっているのは絵本づくりです。アイデアが思いついたときに形にしていきます。絵本がきっかけでワークショップができたり、グッズが生まれたりと広がっていくこともあるんですよ。
中川さん)
自分たちでジャンルを決めているわけじゃなくて、手を動かして何かビジュアルを作ったり面白いアイデアを出したりふたりで話し合いながら創作活動をしています。そういう活動を知ってくださった方たちから「私たちと×tupera tuperaで何か面白いことしませんか」と声をかけていただいて、活動の幅が広がっていきました。単純に絵柄を作るだけではなく、 “アイデアをプラスしながらものづくりをする”というスタイルが多いですね。
亀山さん)
展覧会「tupera tuperaのかおてん.」も企画の担当の方から、「今までになかったような子どもから大人まで楽しめる展覧会を“発明”しませんか?」って言われて。ワクワクしながら仕事を受けたことを思い出します。仕事の大小に関わらず、お声がけいただいた人の気持ちに応えながらものづくりをしつつ、いい関係を築くことを大切にしています。あと、一緒に仕事をできる人の顔が見えることも大切。都度、出会う人との化学反応を楽しんでいますね。
―今回のすごろくプロジェクトはどのように始まったんですか?
亀山さん)
MIMOCAさんから一緒に何かできませんか?と声をかけてもらったことがきっかけでした。猪熊弦一郎さんのことが、僕たちふたりとも大好きだったのですが、美術館にはまだ訪れたことがなかったのでご縁を頂けたことがうれしかったですね。
中川さん)
いろんな話をするうちに、今年の瀬戸芸のテーマが「島のおじいちゃんおばあちゃんを元気にしよう」ってことだと聞いて、それってすごくいいなと思ったんですよね。だったらこちらは「すごろくで商店街が元気になったり笑顔になったらいいな」というのをテーマに掲げて。亀山の「商店街=人が楽しく通る場所」というキーワードもあり、歩くことで楽しめるものになってほしいと軸が決まりました。tupera tuperaの商品にキューブスゴロクという作品があったので、それをベースにして「商店街ですごろく」というところに至りました。
−「スゴ!すごろくプロジェクト」の詳細を教えてください。
中川さん)
約半年前の5月にまずはマスづくりのワークショップを開催しました。今回9月24日のオープニングセレモニーはすごろくのお披露目の場なんです。
亀山さん)
すごろくってサイコロを振って出たところのマスに何かしら指示があるじゃないですか。そのマスを5月のワークショップで作りました。丸亀の商店街でやるから、ご当地らしさをいれたいと、私たちからは「ご当地ワード」を100ワード用意。参加者はそのワードをくじ引きで引いて、キーワードをテーマに内容を決めていくんです。「うどん」とか「丸亀城」とかね。皆さんの発想で丸亀ならではの“ここにしかないマス”ができました。
中川さん)
5月に作ったものを1.06メートル四方のマスに拡大して商店街に並べ、巨大すごろくとして完成させたのが今回のイベントです。単純に並べるだけでなく、調整や工夫も必要でした。そこはMIMOCAさんや行政の方々、印刷会社などが行ってくれたのですが大変だったと思います。商店街には車道と交差するところがあるので一旦停止を入れて安全性に配慮しなければなりません。道路で遊ぶことになるので危険が及ばないようにサイコロの素材ひとつとっても工夫してくれました。
―イベント初日のtupera tupera杯は2チームで分かれて勝敗を決めるんですね。
亀山さん)
そうです。オープニングの日にはtupera tupera杯と、その後のMIMOCAはすでに申し込みが終了していますが、それ以外の時間はみなさん自由に無料で楽しめます。今回のすごろくプロジェクトは商店街全体を歩けるようになっていて、ゴールまで行くと丸亀城が見えるので達成感があると思いますよ。
中川さん)
個人的に遊ぶなら時間を決めてやるのもおすすめです。15分と区切って一番進んでいる人が勝ちっていうルールでもいいと思いますよ。
―商店街を歩きながら、いろんな人が作った絵を見るだけでも楽しめますね。
中川さん)
マスのなかの絵は切り絵なのですが、どれも個性的で素敵ですよね。5月のワークショップでは、幅広い世代の人が参加してくれました。家族やカップルで参加してくれた方もいましたし、老若男女楽しんでもらえた印象です。なかには子どもより親のほうが夢中になるなんてこともありましたね。
亀山さん)
大人が夢中になるってとても大事なことだと思っています。私たちの活動は決して子ども向けにやっているものではありません。大人こそ思い切り楽しんでほしい。子どもは石ころひとつでも遊ぶことができます。なんでも遊びにできる才能があるんです。だから、大人こそ絵本読んだり、工作を楽しんでほしいと思いますね。
―大人が楽しむことが子どもにとってもいい影響になるんですね。
亀山さん)
今の子どもはこうだから良くないとか、どの時代も大人はそう言ってきましたが、果たしてそうでしょうか。本当は大人がダメになっていないですか?
大人が面白いことを追求して、子どもと一緒に楽しむことが大切なんじゃないかと思います。
―最近の子どもはインプットが多くてアウトプットが少ないと言われていますが、創造性を育むために家でできることはありますか?
中川さん)
子どもって親の思惑とは全く関係ないところでスイッチが入ることありませんか。そのスイッチが入った時に、材料や道具がないとやろうと思った気持ちが冷めてしまう。いつでも作れるように、紙やペンやハサミといった材料が常に身近にあったり、工作に使えそうな材料を残しておいてあげることは、大人の役割かもしれません。塗り絵だったら親子で塗る場所を分けて対決しよう!とゲーム性をもたせたり、親が真剣に塗って、どうだ!と見せてあげるとか。やりなさいというのではなくて、一緒に楽しむ。そうすると子どもも興味が湧くような気がします。
亀山さん)
子どもが、自分でやろうとせず「ママやって〜」ということもあります。でも、子どもはうまくできないことだらけ。シナプス接続中なんです。だからうまくできないことでイライラしたり、ジレンマがあるんだと思いますし、それを感じながら成長しています。「親を頼らず自分でしなさい」というのは大人の都合。「できない」という子どもをとがめる前に、言葉の奥にある思いを汲み取ってあげられたら素敵ですよね。
子どもの「できない」の言葉の裏には、いろんな複雑な思いがあるのかもしれませんね。大人も一緒に全力で楽しむ。道具や材料を用意しておく。まずはそんなところから始めてみると子どもの創造性を養う一歩になるかもしれません。
MIMOCA×tupera tupera「スゴ!すごろくプロジェクト」の巨大すごろくは、丸亀市通町商店街で11月6日まで週末や祝日などの10日間展示されています。
亀山達矢さんと中川敦子さんによるクリエイティブユニット。「しろくまのパンツ」「かおノート」などの絵本作家として、またテレビ番組「ノージーのひらめき工房」ではアートディレクションを担当するなどジャンルや肩書きを超えて幅広く活躍している。