全国ツアー中の劇団四季のミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』。同名の人気小説を舞台化した、劇団四季16年ぶりのオリジナルミュージカルで、初演の2020年には雑誌「ミュージカル」による「ミュージカル・ベストテン」作品部門の1位にも選出されました。
舞台は、アンドロイドが人間に代わって家事や仕事を行う近未来。心に傷を抱えた男(ベン)が壊れかけのロボット(タング)との旅を経て、成長していくストーリーです。主人公ベン役の田邊真也さんにインタビューすると、パペットであるはずのロボットに”命”を吹き込んでいく、劇団四季俳優たちのプロの技が見えてきました。
―作品の見どころを教えてください。
この物語は、ダメ人間の「ベン」と、壊れかけのロボット「タング」が世界中を旅するのですが、世界各地の文化に沿ったものをテーマに添えています。例えば、日本を訪れた時には、東京の秋葉原をイメージしたダンスがあって、「ああ、こんなイメージだよね」とみんなが共感するような楽しい振付になっていたり。歌やダンスはバラエティに富んでいて、まさにミュージカルのおいしいところが満載だと思います。
ロボットの「タング」は2人の俳優が操るパペットです。これが簡単なように見えて、難しい。ものすごい稽古量とあうんの呼吸が必要です。これが見事に調和されてタングに命が吹き込まれている……これが一番の見どころですね。
―ベン役の田邊さん、パペットであるタングとのやり取りはいかがでしたか?
最初は「小道具」としか見ていなかったので、視線を合わすだけでも大変でした。顔はお互いを見つめているつもりでも、数センチの違いで下を見てしまっているとか。そういう場面で1回1回止めながら確認するんです。タングを操る俳優たちが血のにじむような努力をして命を吹き込んでいってくれたので、今は普通に呼吸をしているように生きている仲間としてやり取りができるようになりました。
―この作品はベンとタングの絆が薄いところから始まって絆を深めていくストーリーです。タングに愛着を持ちすぎると難しくなるのでは?
はい、稽古をすればするほど、タングが可愛くなってしまいました。最初の出会いのシーンはただのロボットとして見なければいけないのに、距離感のある芝居が分からなくなりましたね。その時に演出家の小山ゆうなさんと話をして、目線の高さを工夫しました。出会ったときはあえてちょっと上から見るとか、絆が深まれば深まるほど目線の高さがあってくるように心掛けました。
それはタングだけじゃなくて、他の役に対しても同じで、絆の深さがあだになってしまうことも。”一瞬一瞬を新鮮に、輝きを持って小さな真実を積み重ねる”これって当たり前のことなんですけど、絆が深まっても、このことを見失わないように常に意識しています。
―他に田邊さんがベンを演じるにあたって意識したことはありますか?
ベンが自分に自信が持てないうちは、相手と正面から話さないようにしました。体の向きとかそういう意味ではなく、言葉自身のベクトルをまっすぐ相手に届けないというか。それからストーリーが進み終盤に向かうにつれ最後はおなかから真正面に向き合う。これがこの作品のテーマでもある「成長」や「再起動」に向かっていく力になると思って意識しています。
―8月には原作小説を映画化した日本映画「TANG タング」も公開されますが、舞台作品の魅力は?
やはりライブ感でしょうか。僕ら俳優は、稽古をしてある程度心の動きが定まって舞台に臨むんですけれども、やっぱり毎回、細かい繊細なところが変わったりすると思うんです。ある言葉のニュアンスとか、目の表情とか……何回見ても同じものはないという。あとは、個々のお客様のその日の気持ちが、目の前で繰り広げられるものと結びつく瞬間が舞台の強みじゃないでしょうか。
最後に、作品を観る人へのメッセージを尋ねると、「『今はこういう世の中でも、きっといい未来がある』という思いを確信に変えるために、ぜひ劇場で心を洗って楽しんでほしい」と話してくれた田邊さん。取材を通し、劇団四季が掲げる「生きる喜び」を届けるという強い思い、執念というほどの作品に対するこだわりを感じました。
劇団四季ミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』の全国ツアー公演は、今後、本州・中四国・九州の各地を回りながら、10月中旬まで行われる予定です。
岡山県では8月31日と9月1日に岡山市民会館(岡山市)で、香川県では8月28日にハイスタッフホール(観音寺市)、8月30日にレクザムホール(高松市)で上演予定です。