空前の猫ブームのなか新しく家族に迎える人が増えている反面、捨てられたり、捨てられた猫が子どもを産んでまた増えたりして、野良猫の数は一向に減らない。野良猫の数が増えればそれに関わる問題も増える。野良猫を迷惑に思う人もいれば、同じ命を持つ存在として助けてあげたい人もいる。
そんな野良猫と地域の人が、共生する方法はないのだろうか。参考になる事例の1つに「地域猫活動」がある。
地域猫活動ってどんなこと?
「地域猫活動とは、増えすぎてしまった野良猫の数を避妊去勢手術で抑制し、餌や糞尿の管理をすることで地域環境をよくしようというもので、猫が好きな人と苦手な人の協力がなければ続けることができません」
こう話すのは、倉敷市で地域猫活動を推進する亀山雅子さん。「倉敷地域ねこ活動をすすめる会(以下「くらねこ」)を立ち上げ、町内が抱える野良猫問題の解決に力を尽くしているボランティアだ。
野良猫についてよく問題になるのは、糞尿被害やいたずら、鳴き声がうるさいこと。野良猫をかわいそうに思って餌を与える人がいるが、猫好きな人と苦手な人との間で起きるトラブルも多い。
「くらねこは、そうした『猫に迷惑している人』と『猫を助けたい人』の橋渡しをして双方から話を聞き、近所同士で摩擦が起きないよう調整する役目を担います。その上で捕獲方法をレクチャーし、野良猫の不妊去勢手術に協力的な動物病院を紹介、さらに猫トイレの設置など、実際の活動をサポートしています」
活動のきっかけは野良猫問題
亀山さんの活動の原点は、2000年頃、転居先で目の当たりにした町内の野良猫問題だ。猫の好き嫌いで住民が対立し、不妊去勢手術もされないまま産まれた子猫は保健所へ連れて行かれた。今でこそ施設に収容された猫の保護活動はさかんに行われているが、当時は「処分」するのが当たりまえ。保護活動に携わる人もまだ少なく、亀山さんは知識もないまま、保健所に持ち込まれた子猫をその場で引き取り、自宅で世話をしていたそうだ。
その後、次第にボランティア団体が生まれ、国としても処分ではなく譲渡を推進する方向に向かい始めた頃、関東で先行していた地域猫活動を知り、自分でもやってみることに。
しかし、当初は活動にかかる費用を自己負担していたため、想定外の出費に直面した。そんな時、2017年に倉敷市の市民企画提案事業が募集されていることを知り、地域、行政、ボランティアの三者協働で行う地域猫活動のプランを提案したところ、幸運にも採択された。
行政を巻き込んで地域猫活動
提案事業の実施期間は5年間。最初の1年は一つの町で実績をあげ、2年目以降は倉敷市保健所との協働事業としてこれまで8町で活動。その成果が認められ、2020年には「倉敷市飼い主のいない猫の不妊去勢手術費助成事業」として、100万円の助成金が支給されることになった。
「地域猫活動を始めた時の一番の目標は、行政に地域猫活動を制度として整備し、しっかり予算をつけてもらうことだったので、ひとまず目標は達成できました。でも、希望の不妊去勢手術数に対する予算としてはまだまだ足りなくて。今はふるさと納税による予算増額をお願いするため、署名活動をしているところです」
人が悩みの種であり、喜びでもある
「野良猫問題はつまるところ、人と人の問題」と指摘する亀山さん。
「最近は個人主義の人が増え、何か事が起きた時はすべて自己責任という考え方の人が増えました。飼い主がいない猫は地域みんなの問題なのだから、餌をやる人だけに責任を押し付けるのではなく、みんなで協力しあって解決できないかな、といつも思います」
また、町内の人同士のわだかまりが邪魔をするとき、そこに外部の人間が入っていくと、案外話はできるもの。
「そういう意味で、人と人の橋渡し役になる事は本当に多いですね」
そんな地域猫活動にもうれしいことはある。地域のボランティアは個人で黙々と活動しているケースが多く、同じ町内にいながら同様の活動をしているのを案外知らない。
「そんな人をつなぐことができるのは私のポジションならでは。互いに協力し合い、町内を巻き込んでいい循環が生まれていくのを見るとよかったな、と思います。私も一つの案件が解決できれば達成感があるし、感謝の言葉をもらうとうれしい。時には失敗もありますが、次に生かすことでまた次の問題を解決できます。そんな積み重ねが次に進む力になり、その循環が人のために動くモチベーションにもなっています」
次なる目標は多頭飼育崩壊への対策
少しずつ軌道に乗ってきた地域猫活動。でも野良猫に関わる問題はそれだけではない。今後ますます増えることが懸念されているのは多頭飼育崩壊だ。
猫をたくさん飼っていた高齢者が亡くなり、行き場を失う猫たちがいる。近年ではブリーダーや保護団体が運営に行き詰まって多頭飼育崩壊となるケースも多く、亀山さんのところに持ち込まれる相談案件は後を絶たない。
そんななか、亀山さんが次に考えているのはスペイクリニックを作ることだ。
「スペイクリニックとは、ペットの診療を行う病院と違って、不妊去勢手術を専門に行う病院のことです。倉敷市は圧倒的に不妊去勢手術の予約が取れにくく、費用も高くて。今後、多頭飼育崩壊などで野良猫が増えてくることを考えれば、安価で一度にたくさんの手術をこなせる病院は必須です」
動物に向き合うには覚悟と責任が必要
亀山さんの自宅シェルターには、個人ボランティアを始めた当初、命を救いたいがために夢中で引き取っていた30匹の保護猫たちがいる。
効率的な動物愛護の手段から考えれば、最もお金と時間が必要な活動に最初に手をつけてしまったという亀山さん。しかし、動物保護についていろんなことを学ばせてくれたシェルターの子たちは、本当にかわいいし愛おしいと言う。
「ボランティアは自らの理想を掲げて限られた時間とお金を投入し、善意で活動しています。なのに『ボランティアならやって当然でしょ』という人がいるのも事実。なぜボランティアという存在が必要なのか、その意味を考えてほしい」
願っているのは、動物を飼う前に、終生その動物の面倒を見ることができるかどうか、自分の人生設計のなかでしっかり考えてほしいということ。動物と関わりを持つならば「かわいい」というだけでなく、最も基本的なルールを守ることができるかどうか自ら問い、覚悟を持つことが必要だ。
亀山さんが今、いちばん伝えたいことでもある。