寝不足ではないのに日中に強い眠気を感じ、起きているのが困難になる「過眠症」は、周囲からの理解が得られにくい病気。そんな病の啓蒙活動に取り組んでいるのが、YouTuberのあこちさん。過眠症の「ナルコレプシー」を発症し、社会の中で様々な生きづらさを経験してきた。
時間がかかった病名の診断
ナルコレプシーと診断される前、あこちさんは母親から「夜に寝ない」「朝に起こしても起きない」と言われていた。中学生の頃には授業中、耐えられない眠気に襲われ、教師に暴言を吐かれたこともある。
「おそらく、14歳頃に発症していたのだと思います。その頃は、学校環境の悪さも相まって不登校になりました」
やがて専門学校を卒業後、地方から上京して美容室で働き始めるも、体調不良に悩まされ、半年未満で退職。常に眠いことから精神的に不安定になり、自律神経失調症や双極性障害、うつ病を発症した。
恋人と同棲するも家庭を持つことに限界を感じ、家族の事情も重なったことから帰郷。派遣社員として働いたが、日中の眠気に耐えられず頻繁に怒られた。
「どれだけ頑張っても『寝ている』と捉えられてしまうので、仕事ができていても疑われる日々でした。自分を責め続けることしかできず、思い出すと今でも泣いてしまうくらい苦しかったです」
そんなある日、職場の先輩に「寝落ち方が普通と違うから心配」と言われたことを機に「過眠症」を疑い、病院へ。しかし、病名の特定に至るまでが大変だった。
「睡眠中の脳波を診るので検査入院が必須なのですが、地元には検査できる病院がなく、過眠症専門医も30人ほどと少ないため、秋田まで4回通いました。検査を受けないと、薬を処方してもらえません」
検査の結果、「ナルコレプシー2型」であることが判明。「ナルコレプシー」には1型と2型があり、1型の場合は感情の起伏で脱力を起こす「情動脱力発作」が見られるが、2型は脱力発作がないそう。
「私の場合は1日10時間眠らないと、日中の眠気(睡眠発作)が出て、大切な会議中でも眠ってしまいます。薬を飲まないと、車の運転をしている時でも眠気が襲ってきます。気絶するくらい眠いです」
過眠症は、投薬治療のみ。あこちさんの場合は副作用で頭痛が起きるため、市販の頭痛薬と併用したり、小分けに飲んだりし、頭痛を調節。
規則正しい生活やストレスを溜めないよう心がけ、睡眠を必ず7時間確保するなどの地道な努力も行っている。
現在、あこちさんは薬を服用しながら、デスクワークを中心とした派遣社員として様々な職場を転々としている。だが、8時間労働は心身共にきつく、睡眠時間を確保するため、残業ができない自分を責めてしまう。
「薬を飲んでいれば眠気に耐えられますが、睡眠発作が全く起きなくなるわけではありません。眠ることってみんなに平等にあることだからこそ、本当に理解されづらいことを痛感します」
当事者の心に寄り添った「過眠症の啓蒙活動」
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そんなあこちさんが今、力を注いでいるのはYouTubeで過眠症を伝えること。きっかけは、YouTubeで過眠症を検索した時、当事者の動画がないことに気づいたことだった。
「他の人はどんな対策をしてるの?どうやって生活してるの?と気になって。でも、眠いからTwitterや記事を調べる時間がないし、時間は待ってくれない。何かしながら聞きたい、誰か話してほしいという焦燥感と怒りのような感情が湧いてきて、『だったら、私が作る!』という軽いノリで最初は始めたんです(笑)」
YouTubeでの啓蒙活動は、今年で3年目。活動をしていく中で、過眠症の認知や理解をもっと広げたいという願いや当事者の励みになれたら…という思いがこみ上げ、自然と活動歴は長くなった。
「『当事者同士、一緒に生きていこうよ』『もう自分のことを責めないで』という思いで続けています。これまでの人生を振り返って小説を書いたり、カバー曲でMV風動画を作ったりしています。やめる気持ちはなくなってしまいました(笑)」
なお、あこちさんは自身が苦しかったからこそ、授業や仕事の合間に「仮眠休憩」がある社会の実現を願っている。
「現代はフルタイム+残業で寝不足の人も多いので、休息することの大切さをより多くの人に知ってほしい。私を含めて睡眠に関して様々な事情を抱えている人は少なくないので、寝ている人には怒らず、ラフな感じで『寝てたよ!』とか『目を覚ましておいでー!』とか、声かけの配慮やチームワークがあれば……と思います」
あこちさんはYouTubeのほか、Twitter(@P32UmA)でも、過眠症の情報を発信している。
過眠症を含めた、“目に見えない病に理解のある社会”を感じ取りたい――。あこちさんのそんな最終目標が実現することを応援しながら、過眠症という病気への理解を深めていきたい。