不可能のはずが…鳥取でコーヒーの木2万本の栽培に成功 その葉でお茶を開発

不可能のはずが…鳥取でコーヒーの木2万本の栽培に成功 その葉でお茶を開発
ビニールハウス内のコーヒーの木(澤井珈琲提供)

コーヒーは、生育にさまざまな条件が必要で、育てるのが難しい植物とされている。生産国は、栽培に適したコーヒーベルト(赤道を挟んで北緯25度、南緯25度の間)と呼ばれる地域に集中しており、日本は気候条件から、そもそも栽培には向いていない。
しかし、そんな日本の鳥取県で、コーヒー栽培を成功させた会社がある。澤井珈琲(鳥取県境港市)だ。「不可能」と言われた鳥取県でコーヒーの木2万本を育てることに成功し、コーヒーの葉で作ったお茶「トリゴネコーヒー茶」の商品化に成功した。
栽培の中心にいる澤井珈琲の澤井由美子さんに、挑戦の経緯や栽培の苦労などを聞いた。

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健康的な商品への強いこだわり

今から40年前、脱サラして夫婦2人で始めた澤井珈琲。「女性でも砂糖を入れずにストレートで飲めるコーヒーを作ろう」と、創業当時から健康志向にこだわった商品作りをしてきた。

「当時は苦いコーヒーが主流だったので、最初は『薄い』『水っぽい』と言われたものです。それでも他社とは違うものにこだわり、健康的な商品を届けるために『澤井珈琲はこの味でいくんだ』という強い思いでやっていました」

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そして2003年、澤井珈琲が自らコーヒー栽培を始める契機が訪れる。コーヒー豆に含まれる「トリゴネリン」が脳を活性化する効果があり、認知症予防が期待できることを富山大学の服部征雄教授が論文で発表したのだ。

「服部教授に連絡し、実際に富山に行ってトリゴネリンについて教えていただきました。コーヒー豆にトリゴネリンが多く含まれるという研究結果でしたが、茎や葉を通って栄養は実にいきます。だから、葉にも成分が含まれるのではないか?と着目し、分析した結果、葉にもトリゴネリンが多く含まれることが判明しました」

不可能と言われたコーヒー栽培に挑戦

コーヒーの葉にもトリゴネリンが含まれていることがわかり「コーヒーの健康成分を引き出した、葉を使ったお茶を作りたい」と考えた。

「最初はコーヒーの葉を輸入することも考えましたが、それだと農薬の心配がある。それならば、無農薬で安心できるものを自社で栽培しよう!となったんです」

しかし、世界のコーヒー生産地は北緯25度までなのに対して、鳥取はさらに北の北緯35度に位置する。しかも、冬は氷点下になり積雪もある地域で「コーヒー栽培は不可能だ」と言われた。そんな周りの声にも、由美子さんはものともしない。

「誰にも真似できないオンリーワンの商品を作りたかったんです。私は周りから『無理だ』と言われるほど『絶対成功させてやる!』と思うタイプなんですよ」

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そして、2017年からビニールハウス4棟を建ててコーヒー栽培を開始。冬の厳しい寒さを乗り越えるために、ビニールシートを二重にするなどの対策を行った。しかし、本当に大変なのは夏の暑さだった。

「コーヒーはかなり水を欲するので、水やりが本当に大変でした。真夏のビニールハウスはとにかく高温で、何度も熱中症になってしまって。朝・夕の2回水やりをしましたが、水が乾いてしまうこともあり、栽培していた2万3000本のうち3000本は枯れてしまったんです」

それでも由美子さんの熱心な世話もあり、2万本のコーヒーが育った。次はコーヒーの葉を使った商品開発だが、こちらも一筋縄ではいかない。

「コーヒーの葉はえぐみが強く、独特の青臭さがありました。これをどうやったら栄養成分を損なわずに、おいしいお茶として飲んでもらえるか、とにかく試行錯誤しましたね。そしてコーヒー栽培から3年後、やっと商品化に成功しました」

こうして出来上がったのが、トリゴネリン成分を含むお茶「トリゴネコーヒー茶」だ。

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甘味があり、まろやかですっきりとした味わいに仕上がった。製造方法に関しても2022年に特許を取得した。

コーヒーを使った商品開発に挑み続ける

現在はコーヒー栽培が安定し、葉の収穫量も確保できるようになってきた。最近では、コーヒーの花や実も多くつくようになり、これらを利用した新しい商品開発にも取り組んでいる。

「今は、コーヒーの花でハチミツが作れないか考えています。海外には『コーヒー花ハチミツ』がありますが、これを自社でも作りたいんです。ただ、コーヒーの花は2日で枯れてしまいます。一斉に咲けばいいのですが、バラバラに咲くので、そこをどう乗り越えるかが課題です」

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今は養蜂場や海外のコーヒー花ハチミツ作りに詳しい人と相談しながら、商品開発を進めている。常識にとらわれず、開発に取り組む由美子さんの表情は明るい。

「私は商品開発をしている時が一番わくわくします。ゼロから作って形になっていき、いいものが作れたときの達成感がすごく好きなんです。今後も、お客様に健康的な商品を提供できるよう、挑戦を続けていきます」

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