大阪府池田市の閑静な住宅街に店を構える「まがり書房」。
「品揃えにこだわっている隠れ家のような本屋を、自分の住む街に作りたかった」
そう話すのは、元図書館司書の店主・小笠原克巳さん。毎日の開店時、入口横の黒板に明朝体で書いている俳句について、話を聞きました。
黒板俳句は日記の代わり
小笠原さんの俳句歴は、開業とほぼ同時期の2017年から。店頭に置かれた黒板にスタッフの近況が書かれている飲食店を見かけ、「看板代わりに日記を書けばいいのでは」と思いつきました。
「最初は新刊の入荷案内を書くつもりで黒板を設置したんですが、本が入ってこない日もあるため日記の代わりに俳句を書いています。俳句なら文字数が短くて済むし、型が決まっているから」
一句完成するまでにかかる時間はバラバラだという。
「黒板に書く直前まで浮かばない日もあります。書いている途中で変わる句もあるので、完成してみないとわかりませんね。『昨日買ったとうもろこしが美味しかった』とか生活に密着した句ばかり書いています」
明朝体で書く理由
書道を習った経験がない小笠原さん。自分でペンキを塗って作った黒板は凹凸があるため、チョークで書くコツが必要です。最初は書き上げるのに30分かかっていました。
「もともと字が上手じゃないから、ごまかすために明朝体で書くようになりました。明朝体は太い線、細い線、直角のメリハリさえつければそれなりに見えるんです。取るに足らない俳句でも、明朝体なら賢そうに見えるでしょう」と小笠原さんは笑います。
フォントのような美文字ですが、お客さんからの反響はあるんでしょうか。
「写真を撮っていく人は多いけど、直接感想を伝えてくれる方は少ないです。毎日開店時に黒板俳句の写真を撮ってツイートしているので、それを誰かが見てくれていると思えば続けられますね」
2020年に俳句をまとめたリトルプレス「まがり書房の句集」を発行。「句集の感想を伝えるために、お客さんがわざわざ来店してくれたことが忘れられない」と、小笠原さんは照れくさそうに語ってくれました。