葬儀や墓参りの花でイメージするのは、白い菊ではないでしょうか。日本の気候に合って日持ちすること、邪気を払うといわれていることから、昔から使われてきました。しかし、故人の生き方や思いを尊重し、今では葬儀に様々な花を使うスタイルも選ばれるようになってきています。ガーデニング霊園や洋花祭壇を手掛ける岡山県浅口市の株式会社わたるの代表・三木亜里砂さんに、最近の葬儀や墓で使う花について聞きました。
四季折々の花に囲まれて眠る ガーデニング霊園
レンガの小径を進むと、四季折々の花が出迎えてくれる庭。訪れた6月上旬には、色とりどりのバラが咲き誇っていました。
花を眺めながらゆったりと歩きたくなるこのイギリス風の庭園は、わたるが手掛ける「GARDEN’S(ガーデンズ)倉敷」というガーデニング霊園です。テーブルセットをしつらえた墓、孫の手形をデザインした墓など、個性的なデザイン墓や永代供養塔が並びます。植物とともに永眠するバラの樹木葬、オリーブの樹木葬も注目されています。
どんな人が選ぶのかを聞くと「樹木葬は、バラが好きだった方、自然の土に還りたいと言われる方などです。あとは、自然が好きな方。親族の代々の墓から離れ、ひとりで、もしくはご夫婦や恋人同士で入られる方もいらっしゃいます」とのこと。
核家族化が進み、子孫に負担をかけたくないという考えや、夫婦で先祖代々の墓に入ることへの抵抗から、ここで眠ることを決める人もいるのだそう。慣習にとらわれず、自由なスタイルで墓を選ぶ人が増えているといいます。
お墓や墓地というと、目立たないところにある・行きたくないというイメージではないでしょうか。季節の花が咲く庭園にすることで、「世代が変わっても、『行きたくなる』場所にしたかった」と、三木さんは話します。
人に寄り添う花の力
わたるではさまざまな色の花を使い、故人の家族の要望も聞きながら、時には華やかに祭壇をつくります。
三木さんは「祭壇の花といえば、色は白か地味な色。今でももちろん、ベースはそうですが、好きな花を取り入れられる方も増えてきています。個性を出すことに抵抗がなくなってきていると感じます。故人や家族の思い入れのある花が、自由に使われるようになってきました」と話します。
以前には考えられなかった、真っ赤なバラを使うこともあるといいます。赤いバラは鮮やかな色ととげがタブーとされていました。しかしトゲをとり、あえて使うこともあります。30代という若さで亡くなった男性の葬儀では、濃い赤のシャクヤクを使いました。
ベースが白・ピンクとあって、「おめでたい色とされる『紅白』になるじゃないか、という声が上がるかもしれない。それでも、ご家族と話しながら、30代でなくなった男性の無念さや、もっとやり遂げたかったであろう情熱をこめました」と当時を振り返ります。
三木さんが花にこだわるのには理由があります。大学時代に花屋でアルバイトをしていた頃は、花が好きではなかったそう。葬儀の仕事を通して、再び花に触れるようになり、花の力を実感するようになったのです。
「葬儀は一番悲しい瞬間。様々なお別れを間近で見て、その瞬間に人を癒すのが花だとわかりました。悲しみに寄り添うには、言葉では限界があります。花は、添えるだけで、人の気持ちに寄り添う力がある。悲しみを昇華していく力があると、日々感じています」
わたるは、2022年1月に花屋カフェ「hana terrace」をオープンしました。悲しみに寄り添う気持ちだけでなく、応援や感謝の気持ちもまた、花に込められるもの。「言葉では伝えきれない思いを、花に託してほしい」と話します。