「お金のことって、どうしても他人には話しにくいもの、嫌らしいものという印象を持たれている方が多いですよね。そこを変えていきたいなと思うんです」
そう語るのは、調査官として名古屋国税局に13年間勤め、住宅ローン控除の審査チーフとしても活躍していた但住(たずみ)奈都貴さんだ。2021年に独立してleya officeを立ち上げ、多くの人に「お金をより身近に感じてもらう」「自分事として考えてもらう」ためのきっかけ作りをしている。
私たちにとって身近なお金の話の1つが、住居費。家賃や住宅ローンの返済、固定資産税などがこれに該当する。その中でも今回は「住宅ローン」に焦点を当てながら、なぜ私たちがお金の話を身近なものにすべきなのか、但住さんに話を聞いた。
住宅ローンの適正な借入額とは
但住さんは調査官時代、明らかにオーバーローンと思われる借入額で住宅ローンを組んでいる人たちを多く見たという。「家を買う=大きい買い物をする、という意識が低い印象を受けましたね。契約書の見方も分からない、ローンについてもよく分かっていない状態で家を購入している人が多いように思います」
では、住宅ローンの適正な借入額とはどのくらいなのか。
但住さんによると、多少の地域差はあるものの、借入額は「世帯年収の5倍から7倍まで」とするのが適正だという。また、返済額は「世帯年収の20%程度」とするのが理想とのこと。
(例)
世帯年収:600万円
借入額:3,000万~4,200万円
返済額:120万円/年
ボーナス月の増額は極力避けてほしい、と但住さん。「ボーナスは会社の業績や個人の評価によっても左右しますし、そもそも絶対に支給されるとは限りませんよね。ボーナス月の増額はせずに、毎月同じ金額を返済する方が安心です。もちろん、残業代もあてにしないでくださいね。源泉徴収票を見るだけでなく、実際にもらえる“手取り年収”を把握しておくことも大切です」
調査官時代に目にした現実
国税局入局当初は「私自身もマネーリテラシーは低い方だった」と但住さん。しかし実際に調査にあたってみると現実は想像以上で、「知らなかった」というだけで損をしている人が驚くほど多かったそう。副業をしていながら確定申告の必要性を認識しておらず、無申告加算税が課せられている人はその最たる例。
「これまでお金の教育がされてこなかった日本においては、マネーリテラシーの高い人が多くいるとは決して言えません。お金の話が身近でないからこそ、『知識がない』『分からなくても必要に駆られなければ放置する』という人が多いように感じます」
マネーリテラシーは自立して生きる上で欠かせない
住宅購入時も、マネーリテラシーが備わっていればオーバーローンに陥らないのでは、と但住さん。
「いざ住宅ローンを組もうとしたら、金融機関から世帯年収の9倍から10倍の借入額を提示されたという話を耳にすることがあります。さらにハウスメーカーからもさまざまな提案を受けて、気づけば当初の予算は大幅にオーバー。でも、『借りられるなら良いか』と提案されたとおりに進めてしまう人も少なくありません」
但住さんによれば、マネーリテラシーの有無が「自分の身の丈に合っているか否か」の気づきに直結するという。「マイホームの購入時は視野が狭くなりがち。だからこそ判断に迷ったときは一歩立ち止まって、冷静に考えることが大切。周りにいる誰かに話をするだけでも違いますよ」
「本来、私たちが自立して生きていくのにお金の知識は欠かせないもの。でも、学校も会社も、お金について教わる機会はなかなかないですよね。だからこそ、気軽にお金の話ができる場所、自分事として身近に考えられる場所の必要性を感じたんです」
お金の話を身近なものに
2022年、但住さんが特に力を入れているのが「お金のお話ができる場所の提供」だ。そのために“お金のお話会”をオンラインやオフラインで開催しているほか、金融系Webライターとして、税金や住宅ローン控除に関する記事を多数執筆している。さらに、東京・銀座にあるスナック“デルソーレ”にママとして立つことも。
コミュニティによって運営されているデルソーレでは、店に立つママは日によって異なる。いろいろな知識や経験をもつママたちと気軽に話せるのが魅力だ。訪れる客は男女を問わず、曜日限定で14時に開店する昼スナックには育休中のママが子連れで来店することもあるという。
「デルソーレはなんでも話せる環境だからこそ、ふらっと立ち寄りながらお金のお話もできるんです。オンラインでもオフラインでも、気軽にお金の話ができる専門家として、さらに活動を広げていきたいですね」
今後は「お金のお話会」の開催頻度を上げつつ、ゆくゆくは大きな会場に税理士を招きながら開催したいと考える。「稼ぐ」「使う」「貯める」「投資する」「守る」の5つを柱に据えながら、但住さんは多くの人の幸せを願ってマネーリテラシーの向上に努めていく。