コロナ禍で、家で誰とでも楽しめるボードゲームが人気だ。2021年1月からフリーランスになり、ボードゲームの魅力を伝えるゲームファシリテーターとして活動しているチョモランマ山下さん(以下、山下さん)は、ゲーム会を開催しながら各地のカフェやフリースクール、介護施設などを回っている。以前は会社員として働いていた山下さんがボードゲームを携えて全国を回るようになる背景には、子どもの頃からの実体験があった。
子どもながらに感じたボードゲームの魅力
山下さんが初めて出会ったボードゲームは、親戚が集まった時にやった「人生ゲーム」。年齢や性別関係なくフラットな気持ちで楽しめるボードゲームに、幼少期の山下さんは夢中になった。
「小さい頃からアトピーがあり普通の人とは違うという感覚があったからか、人と比べてしまう癖があったんです。けれど、ボードゲームをしている時間は純粋にその空間を楽しめました」
子どもの頃に夢中になっていたボードゲーム熱は、大学生になって再燃。地元の岐阜県を離れ新潟の大学に進学した山下さんは、同じアパートの学生たちとボードゲームを楽しむようになる。
「新潟の冬は雪で外に出られない日も多かったので、家でできるボードゲームをやり始めたんです」
生い立ちや個性がさまざまな人たちと同じものを共有しながら笑い合えるボードゲームは、再び山下さんを魅了した。
限界を超えてしまった会社員時代
「社会人として2年間東京で働いたあと、岐阜県へ戻り自動車部品メーカーで働き始めました。あれは、働き始めて9年目の冬のこと。今でも鮮明に覚えています。目が覚めたのに、金縛りのように体が動かなかったんです」
今考えればアトピーがひどかったことや、仕事量が増えストレスが積み重なっていたことが原因だったのかもしれないと山下さんは話す。ベッドの上で感じた得体の知れない不安や孤独感。そこから9か月間、会社を休職することになった。病院での診断は「うつ病」。
「誰にも会いたくなくて、しばらくベットとトイレの行き来だけの日々。社会から切り離されたような虚無感に襲われました。どうせ死んだような身ならいっそ好きなことをやろうと、あの頃は一人でボードゲームをやっていました。一人三役でやるので、手の内なんてバレバレです(笑)。でも僕にとっては唯一の癒しの時間でした」
山下さんを救ったのは、やはりボードゲームだった。
感じたままに行動した先に開けた新しい道
「このままでは前に進めないと思っていた時に声をかけていただいたのが、エムエム・ブックスの方でした。休職して半年ほど経ったころ、エムエム・ブックスの編集長のお手伝いとして関わることになったんです。まるで一筋の光が差したようで、必要としてくれる人がいることが嬉しかった。そしてある日、新しく始まるラジオのアシスタントをしないかと打診されたんです」
当時はまだ休職中の会社員。復帰するという選択肢もあったので悩んだが、自分が感じたことを信じようと思った山下さんは会社に退職届を出し、その足でラジオの収録へ向かった。
「3年間、ボードゲームが好きなチョモランマ山下としてラジオアシスタントをやっている中で、『うちでゲーム会をやってほしい』と言ってくださるリスナーさんが出てきたんです。それがきっかけで全国を回るようになりました。今の活動のきっかけを与えてくれたエムエム・ブックスさんやリスナーのみなさんには感謝しかありません」
ボードゲームの魅力を伝えたい
ゲーム会は山下さんが参加者に合わせてゲームの選定を行い、リズムよくゲームを行う。子どもも大人も分け隔てなく時間を共有できる。
「会社を辞め、自分の気持ちに素直になって行動しようと思いゲームファシリテーターとして活動していたら、新たな出会いで世界がどんどん広がりました」
山下さんは、これからも人との繋がりを大切にしながら、ボードゲームを通して交流できる場を作っていきたいと話す。
「ボードゲームはやっている時の楽しさはもちろん、やり終えたあとの余韻がいいんです。美味しい物を食べた後の感覚に近いような、心が満たされる瞬間があります。それを参加してくれる人にも体感してもらえたら、僕のいる価値があるんじゃないかなと思っています」