オオカミと犬をかけ合わせたハイブリッド種「ウルフドッグ」。日本国内では約500頭しか存在しない貴重な品種だ。
「ピリカ」と名づけられたウルフドッグは、現在4歳。飼い主の舩橋さんは都会から岐阜県恵那市の山中に移住し、古民家を改装してカフェを営んでいる。珍しいウルフドッグをなぜ飼うことにしたのか、飼ってみてどんな生活になったのかなどを尋ねた。
ウルフドッグってどんな動物?
ウルフドッグはオオカミと犬のかけ合わせで、オオカミの血の濃さで区分がある。薄いものをロー、半々はミドル、75%以上をハイと呼び、ピリカは90%以上だ。アラスカオオカミや北極オオカミ、ハイイロオオカミなどさまざまな血が混ざっている。
しかし、ピリカは他のウルフドッグに比べて小柄な方で、体重は35キロほど。一見犬とあまり変わらないようにも見えるが、犬との違いについて舩橋さんはこう語る。
「犬と明確に違うのは、オオカミは他者に媚びないところです。犬は人間に依存しますが、オオカミは群れを作るけれど、それぞれが自立したなかで絆をつくっているんですよ。そこがウルフドッグの大きな特徴かな」
ウルフドッグを飼う上で大変なこと
犬との違いは他にもある。オオカミは肉食で、オオカミの血が90%以上あるピリカも基本的に肉しか食べられない。
「ピリカを飼っていて一番大変なのは食料の確保です。肉しか食べられないので、市販のものを買っていたら、エサ代だけで年間50〜60万円くらいするんですよ。ただ、うちは環境に恵まれていて、山なので猟師さんもいるんです。そういう方から猪や鹿肉を分けてもらっています」
肉が手に入るとはいえ、大変なこともあるようだ。あるとき、玄関に1頭の猪が置かれていたこともあったという。
「知り合いの猟師さんが何も言わずに置いていってくれたんでしょうね。だけど、その頃はまだ肉の解体方法を知らず、焦ってYouTubeでさばき方を勉強しましたよ(笑)」
1頭を解体するのに約4〜5時間かかるという。舩橋さんはカフェを営んでおり、広い敷地の管理や薪割りなどの忙しい生活のなかで、エサを用意するのは大変だ。
「自然相手だから、いつ肉が手に入るか予測が立てられないんですよね。肉をいただけるのはありがたいことではあるんですが、時間のやりくりが大変です。山暮らしをしたくて移住してきましたが、まさか肉をさばく生活をするとは思っていませんでした(笑)」
ウルフドッグを飼うことにした理由
ウルフドッグを飼うことはとてもハードルが高そうに思えるが、舩橋さんが飼うことに決めたのは昔からの憧れがあったからだという。
「昔から山で馬を飼う生活をするのが夢だったんです。都会から山に移住してきて、山に住む生活は叶った。だけど、馬は留守にしたときに誰かに世話を頼むこともできないし、現実的に難しいと思い、諦めたんです」
そんなとき、知人の「ウルフドッグを飼ってくれる人はいないか」というSNSの投稿を見て、「馬は無理だけど、ウルフドッグなら飼えるかもしれない」と思ったそうだ。ピリカを迎え入れたのは生後3か月のとき。ちょうど舩橋さんの娘が生後半年の頃だった。
「大きい動物ってエネルギーも大きいと思うんですよ。そんなエネルギーを感じながら生活したいという夢があったんですよね。それがウルフドッグを飼うことで実現しました」
ピリカとの生活
昔からの夢を叶えた舩橋さん。ウルフドッグを飼ってよかったことは「夜、遠吠えをするのがカッコいい!」と笑う。
「ピリカと一緒に暮らすのは、子育てと似た喜びがあります。すごく手がかかるけれど、手がかかるからこそかわいいのは子育てと一緒かなと思いますね。あとは単純に癒されますよ。疲れたときは自然とピリカの近くに行きます」
さらに、ピリカといることで野生を近くに感じられるという。最後に、舩橋さんは付け加えた。
「『ウルフドッグ』は珍しいし、そこだけが注目されることもある。けれど、品種がどうとかではなく『ピリカ』単体として、ピリカと一緒にいられることが幸せです。大事な家族の一員ですよ」