訪れた後、思わず人に話したり、SNSに投稿したりする小ネタを探すのは、テーマパークや水族館など、観光スポットを訪れたときの楽しみの一つ。筆者も「何かないかなあ」と、気がつくと探している一人です。しかし、高知県室戸市の「むろと廃校水族館」は、その数がケタ違い。探さなくても見つかるほどの、クスッと笑えるネタの宝庫なのです。
今回は、そんなユニークなネタの一部を紹介するとともに、仕掛人の若月元樹館長に、アイデアの源泉を取材してきました。
数え切れない小ネタ!
2018年4月にオープンした、むろと廃校水族館。入口には、かつての小学校の面影を残す石碑が建立されている……と思いきや、その正体は自販機。中に入るとすぐ、使われなくなったAEDの箱の中から、金魚がお出迎えしてくれます。
なぜかパンが描かれた水族館の“パン”フレットを手にとり、階段を上ると、踊り場に学校おなじみの書初め(ただし、イカスミで書かれたもの)が並びます。
2階へ上り、手洗い場(タッチプール)の中にいるヒトデと触れ合ったあとは、跳び箱の中にイモリを発見。
さらに奥へ行くと水槽エリアで、ほとんどが地元の漁師から提供してもらったという室戸の海の生き物たちと出会えます。
スタッフが港ですくってきたというたくさんのボラには、エサをやれます。ただし、エサが入ったカプセルトイには「迫力は求めないでください」と注意書きが。
その後、図書室の前にある100円のおみくじを引くと、不漁(小吉)と書かれていてなんとも言えない気分に。図書室では本棚に擬態化したプリントシール機(ブリクラ)に出会いました。
また、シュールなコメント付きの標本、防火水槽にいたという理由で消火バケツに入っている金魚……などなど、最後に25mプールの大水槽にたどり着くまでに、ツッコミどころ満載の小ネタがたくさんあるんです。
楽しく生きる!を実践
こうした仕掛けのほぼすべてを発案しているのが、館長の若月元樹さん。アイデアは、“世の中にウケること”を狙っているわけではなく、自分が楽しいと思うこと、やってみたいことの追及だと話します。
「自分の幸せを追求して皆を巻き込んでいる、で同時にみんなも喜んでくれればラッキーじゃんっていう感じです。友人には、『また自分のやりたいことにみんなを巻き込んで』みたいな言われ方をよくされますけど(笑)」
最近では、12月から運行を開始した世界初のDMV(道路と線路を両方走る乗り物)にちなんだ「DMぶり」のぬいぐるみ、SDGsにちなんだ初詣気分を味わえる「えすでぃ神社」(既に終了)など、その時々で時事ネタも積極的に取り入れます。
「理由は、僕が飽きっぽいからです(笑) だから水槽の展示もコロコロ変えますし。もう一つの理由は、過去に一回や二回来ただけの人に廃校水族館のことを語らせないように、最近来た人と常に話が合わないようにしようと思って(笑)」
日頃から空港やホテル、イベントなど、通りかかった観光に関わる全ての場所で面白いと思うことを観察したり、毎朝複数の新聞を欠かさずチェックしたり、水族館に関わる業者と会話をしたりするなどして、さまざまなところから情報収集をすることが、アイデアが生まれる源だと教えてくれました。
そして、自分自身が心から「楽しい」と思えるかどうか、売れるか売れないかではなくて、売りたいかどうか、欲しいかどうかを判断基準にすること。これが、若月さんが最も大事にしている価値観です。
「コロナがなければもっとスパークしていたと思いますよ(笑)。温めていることはまだまだいっぱいあります!」
このほかにも、若月さんのユーモアがたっぷり詰まった小ネタの数々、かつての小学校の姿をそのまま残した“登校気分”が味わえるスポットなど、小さいながらも見所たくさんの、むろと廃校水族館。紹介し切れなかった魅力は、ぜひ皆さんに直接味わってほしいと思います。