世界で一つの”母乳ジュエリー”つくる職人 数千人の母親の思いをカタチに

世界で一つの”母乳ジュエリー”つくる職人 数千人の母親の思いをカタチに
櫔原さんが手掛けた「Nadia」 母乳アクセサリーのことを教えてくれた友人の名がつけられている

子どもを育てる上で、味わう喜び、そしてぶつかる壁、母親にとって思い出が詰まっている母乳。授乳が始まるときの喜びや悩みだけでなく、卒乳、断乳を迎えたときにも、ある種の寂しさを経験した母親も少なくないでしょう。
そんな母親の思いをジュエリーで「形」にした女性がいます。母乳を素材としてジュエリーを制作する櫔原(とちはら)悠希さん。オーストラリアで専門的な制作技術を身につけ、現在は岡山県吉備中央町にアトリエを構えています。

制作風景
制作風景

母乳ジュエリーとの出会い

母乳ジュエリーは、客から提供された母乳でつくるオリジナルのジュエリー。粉末にした母乳に、樹脂を混ぜて型に流し込み制作します。ビーズやネックレス、指輪などさまざまな種類があります。

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櫔原さんはオーストラリアで暮らしていた2014年、母乳ジュエリーに出会いました。長男の授乳期間中だったこともあり、授乳の大変さを感じながらも、母乳がつないでくれる子どもとの絆を感じていたといいます。

「母乳は、私にとって特別なんです。辛かったり痛かったり幸せだったり、私が育児を語るうえでは欠かせないもの。母乳ジュエリーの存在を知って、絶対に欲しいと思いました。そして自分で作りたいとも思ったんです」

それから独学でジュエリー作りに挑戦。ところが、制作途中で腐ってしまったり、色が濁ったりしてしまうなど、さまざまな壁にぶつかることになります。2年ほど試行錯誤を繰り返しましたが、ついに制作を諦めてしまいました。

そんな櫔原さんに転機が訪れます。友人を介してオンラインの母乳ジュエリー専門学校、ブレストミルクジュエリーアカデミーの存在を知ることに。独学での制作に行き詰まっていた櫔原さんは「これはチャンスだ」とすぐに申し込み、1年かけて専門技術を習得後、2017年にオーストラリアで本格的に制作を開始しました。そして、2020年に岡山県に移住して日本での制作を開始したのち、2021年12月に母乳ジュエリーの制作を手掛ける会社、Solid Loveを立ち上げました。

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母親の思いは世界共通

これまでに数千人の母乳ジュエリーを制作してきた櫔原さん。客は東京、大阪に住む母親がメインですが、最近は授乳中の母親のみならず男性の問い合わせも増えてきているそうです。また客の要望で誕生した商品も。母乳のほかに、へその緒や赤ちゃんの産毛の一部を入れたジュエリーも人気だとか。

母乳ジュエ…キャプチャ
母乳ジュエ…キャプチャ

「日本で受け入れられるか、とても心配でした。母乳を使用するので、『気持ち悪い』という声もありますけど、やはり喜んでくれる声が多く日本でも需要があることが分かりました。母親の思いは世界共通だと感じました」

櫔原さんは注文者とのコミュニケーションを大切にしています。人によって色や濃さが違う母乳は、技術的にも細かい調整が必要ですが、注文者の思いを尊重して制作することが大切だと話します。

「必ず注文してくれた人や母乳を提供してくれた人との人間関係を築いてから作ります。お客様の名前から連想する色を提案したり、エピソードを聞いたりして、その思いを込めた制作を心がけています」

⑬はじめに…がけた指輪
⑬はじめに…がけた指輪

母乳ジュエリーを通して母親の支えに

櫔原さんの元にはたくさんの声が届きます。その中には「もっと早く知っていれば……」という声も少なくありません。

「日本には『へその緒は桐の箱で保管』『赤ちゃんの産毛は筆に』という文化風習がありますが、母乳ジュエリーはまだまだ認知度が低いです。まずは多くの人に知ってもらいたいと思っています」

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そして、この母乳ジュエリーで救われる母親が増えることを願う櫔原さん。今後はジュエリーを制作するだけでなく、子育てに関する情報の提供や、母親の支えになるようなコミュニティを作りたいと話します。

「私自身、母乳ジュエリーを見ると、当時の子どもの表情とか一生懸命だった自分を思い出します。ジュエリーがなければ薄れていた記憶もあると思うんです。ジュエリーを通して幸せだったことや大変だったことを思い出してほしいです」

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