神奈川を代表する観光地“江の島”。人々が行き交う自然あふれるこの場所に、「橋の向こうの、日常へ」をコンセプトとしたオーシャンビューの一棟貸し宿、「加美屋リゾート 江ノ島」が2021年12月1日にオープンした。
「古いものに新しい価値を加え、江の島に昔からある良さを感じて欲しいです」
そう話すのは、加美屋リゾートを営む福永さん夫婦だ。
住宅ローンが使えないという壁
「夫婦で都内に住んでいましたが、コロナ禍で在宅勤務が多くなったことをきっかけに、普段遊びに行くようなエリアに住めたらいいねという話になりました。1年近く移住先となる場所を探しまわる中で、自分たちの思い描いているイメージに近く、家の状態が良かったのが江の島にある古民家だったんです。最初は、自分たちが移り住むためだけに購入するつもりでした」
築102年の古民家の購入を進める段階で、福永さん夫婦は大きな壁にぶつかった。現在の建築基準法が出来る以前に建てられた建物は、いかに構造が丈夫で利用価値が高くとも、住宅ローンが使えないこともある。
「複数の銀行を回り、さまざまな切り口から融資を検討いただきましたが、結果的に全てNG。古民家と言われる家は次の世代に引き継ぐことが出来ず、負の遺産になるしかない現状にショックを受けました」
神奈川きっての観光地である江の島。そんな立地でも、古いというだけで価値がつかない土地や建物が溢れているのが現実だ。
住居から古民家再生宿プロジェクトへ
「このままだと、日本中に再活用ができない古民家が溢れてしまう」
夫婦には経営コンサルティングの経験があったことから、日本政策金融公庫へ「古民家の再生活用の意義と必要性」についてプレゼンテーションを行った。
その結果、古民家を地域創生事業および宿泊事業のための一軒宿として一部を人に貸すという方法であれば、前向きに融資を進められる事になったという。
「江の島は都心からのアクセスもよく、年間に2000万人が訪れます。一方で、取得困難な古民家が立ち並び、移り住むことは非常に難しい。この二面性から、時代に合った古民家再生の仕組みを構築し、観光と居住のバランスを図っていくことが重要だということをプレゼンする中で理解していただき、事業創業資金として支援いただける事になりました」
夫婦の新しい移住先探しは、古民家を活用した地域創生事業に舵を切る事になった。
暮らすように滞在することで新しい江の島の魅力を感じて欲しい
妻のさおりさんは建築関連への知識があり、宿のデザインをはじめ備品の調達など、出来ることはすべて自身で行った。泊まってもらう人に、古民家の新しい良さを伝え、大切にしてもらえる空間づくりを考えたという内装は、随所にこだわりを感じる。
「特に2階は、以前あった天井を取りはらって梁を見せる開放的な空間にし、小上がりを作る大胆な改修を行いました。そうすることで海を眺められるようになり、ガラリと印象が変わったかと。一方で、歴史を感じる欄間や障子などは、いちど取り外したものを別の箇所でデザインに使い、大切に再利用しています」
大通りから1本入った静かな路地裏は、昔ながらの江の島の雰囲気が楽しめる。そんなノスタルジックな江の島の奥座敷に、「加美屋リゾート 江ノ島」はある。
「私たちもここで寝泊りするときに、江の島ってこんな表情があるんだと感動することが多くて。商店街やグルメを楽しむのももちろんいいですが、暮らすように滞在することでわかる魅力を知ってもらいたいですね」
「小上がりから海越しに日の出を望むことができるのも、この立地ならでは。日が昇る早朝、空が淡い紫色になり、だんだんとオレンジ色に染まり、やがて太陽が顔を出す瞬間はぜひ見ていただきたいです。たくさんのトビが優雅に飛び交い、朝焼けの幻想的な景色が広がります」
体験することで思い出も色濃くなり、より江の島の魅力を感じることができる。「加美屋リゾート 江ノ島」は、そんな美しい日常に出会える場所だ。