岡山県赤磐市にある熊山英国庭園。旧小野田小学校跡地を整備し、オールドローズなどの薔薇やハーブ、季節の花々が楽しめる田園地帯にある庭園です。
2021年1月、上村統美(もとみ)さんは“この庭園をフィールドに地域を活性化しよう”と赤磐市地域おこし協力隊として愛知県から移住してきました。
コロナ禍で休園期間が続き、思うように活動が進まない時期にも地域内外の集まりに積極的に出掛けて、人とのつながりを大切にしてきた上村さん。今、その活動が少しずつ実を結び始めています。上村さんの活動への思いや、活動の原点となるイギリスの暮らしについて話を聞きました。
異国で身に付けた「人の輪に入っていく」大切さ
「外国に住むことが昔からの夢でした。特に歴史のある場所に憧れていました」
短大の英語科を卒業後、数年の就職期間を経て、上村さんはワーキングホリデー制度を使って渡英。ホームステイをしながら、イギリス中部にある語学学校に通い、英語を学ぶ日々でした。
ところが、渡英から1か月後、ロンドンで同時多発テロが発生。
「『まさか』という思いでしたが、これをきっかけに思いきって行きたいところへ行こう」と、以前旅行中にインスピレーションを感じたというスコットランドの首都エディンバラに移りました。
「中世の建物が残るエリアで、重厚感ある街並みが魅力です。ただ、イギリス北部に位置するエディンバラはとても訛りが強いところで、それまで習った英語がまったく通じなくてとても落ち込みました。知り合いもなく住む場所も決まらないホテル暮らしの日々。初めてのカルチャーショックでした」
上村さんの場合、ここから精力的に動きます。スーパーに貼り出してあったシェアハウスの募集から住む場所を決め、少しずつ顔なじみや知り合いを作っていきました。上村さんは「日本で貯めたお金があるから大丈夫。行けるところまで行ってみようと。生きていくため、日々サバイバルでしたね」と笑います。
この時、上村さんは「恥をかくことを恐れずに、とにかく自分から現地の人に話かけて、人の輪の中に入っていく」大切さを学びます。
暮らしの中で共感した「セレンディピティ」という考え
上村さんはその後、日本に一度帰国したものの、2008年に再び渡英。観光客向けのツアーアシスタントや日本向けの旅行雑誌ライターのほか、ベジタリアンやビーガン(卵やチーズも含む動物由来のものを食べない人)向けに和食を提供する事業を起業するなど、さまざまな仕事を経験しました。
「イギリスではビーガンの人口が急激に増加しています。そういう人たち向けに、寿司やひじきの煮物、発酵食品といった和食がとても人気でした」
また、アーツ&クラフツ運動を行ったイギリスのデザイナーであり思想家、ウィリアム・モリスに縁のあるコッツウォルズ地方にも数年間住んでいた上村さん。目の前にやってきたチャンスは掴んできたと話します。
「素敵なものや人に偶然出会うという意味の『セレンディピティ』という言葉が好きです。イギリスは新しい人との出会いや直感を大事にする柔軟な人が多いように思います。私にはその考え方が合っていたようです」
自分の経験を生かせる場所を見つけて
2016年、イギリスはEU離脱に大きく舵を取りました。物価が上昇し消費が落ち込む中、ヨーロッパ人への排斥もあり、国中が混乱に陥ったといいます。順調だった和食の仕事も採算が合わなくなりやめざるを得ませんでした。
愛知県に戻り、イギリスで過ごしたこれまでの経験が生かせる仕事を探していたところ、偶然巡り合ったのが、赤磐市地域おこし協力隊の募集でした。
「十数年暮らしたイギリスで知った文化や暮らしを伝えながら、地域の人と人とを繋げられるお手伝いができればと思い活動しています。熊山は自然が豊かで、どこかコッツウォルズに雰囲気が似ています。庭園にいると、イギリスの田舎にいるような感覚になりますね」
この庭園をフィールドに地域を活性化したいと考える上村さんの活動が始まりました。
地域の協力を得てクリスマスマーケットを開催
熊山英国庭園は12月5日、「クリスマスcraftマーケット」を開催します。
「イギリスやヨーロッパのような本場に近いクリスマスマーケットにしたい」という上村さんの思いに共感した地域の人たちと一緒に作り上げるマーケットです。
イギリスのクリスマスシーンに登場するというフルーツとスパイスがたっぷり入った「ミンスパイ」は、赤磐市で自家製酵母パンを作る「Mini Log Bakeryまきストーブ」の矢部麻希子さんに依頼。2人で話し合って、イギリスらしく星型の飾りにしたそう。
「シュトーレン」は、ドイツで修行した天然酵母パンの店が担当。また今回は、ヨーロッパの秘伝レシピを使ったホットワイン風のスパイスジュースの試飲を200杯限定で無料配布。熊山公民館活動の一つ、陶芸クラブが作成した年号入りのオリジナルワインカップ(有料)でも楽しむことができます。
そのほか、羊毛クラフトやリース、フルーツポマンダー(香り玉)のワークショップなど。12月11日から1月7日までは、地元の活性化委員会によるクリスマスイルミネーションも見所(夜間入館できるのは12月19日から12月30日)です。
「熊山英国庭園は、どうしても薔薇の時期に観光客が集中してしまいがち。花が少ない時期にも来ていただけるような楽しいイベントを今後も考えていきたい」
この庭園から地域活性化を願う上村さんの挑戦は続きます。