岡山県のほぼ真ん中に位置する吉備中央町は、町全体がなだらかな高原地帯で、多様な自然環境に恵まれている地域です。近年、この町に魅了された移住者たちが古民家カフェを続々とオープン。町に活気をもたらしています。
2021年5月、吉備中央町の山の上にカフェ「手網焙煎 オーガニカコーヒィ」を開店させた笹田夫妻も、この地域の豊かな自然に魅力を感じ、移住を決意したそうです。店をオープンするまでの経緯、コーヒーとスイーツへのこだわりについて、夫の亮さんに話を聞きました。
自分たちの手で納屋をリノベーション
関西出身の笹田夫妻ですが、東日本大震災以降から食べ物や水の大切さを痛感するようになり、自分たちで作ったものを食べたいとの思いから、移住先を探し始めたそうです。
「初めは徳島県で移住先を探していたのですが、なかなかいい物件に出会えなくて、岡山県でも探し始め、高梁市に移住しました。その後、吉備中央町に住んでいる友人の家に遊びに行ったとき、四季折々でさまざまな表情を見せる山々や、『森の宝石』とも呼ばれる希少な野鳥・ブッポウソウが毎年飛来する自然の豊かさに魅力を感じたんです。景色や空気がきれいな場所で子育てをしたかったのもあり、この地域に引っ越しすることにしました」
店舗のリノベーションには約半年ほどの期間がかかったといいます。オープンするまでのエピソードや苦労などについて尋ねました。
「吉備中央町に引っ越しをしてからしばらくの間は、町内の産直所などに出店していましたが、いずれは自宅の敷地内でお店をやろうと思っていました。このお店は元々納屋だったのですが、前に住んでいた方の荷物がたくさんあって、それを処分するのが大変でしたね。屋根は大工さんに修理してもらいましたが、ボロボロだった壁を一度剥がして塗り直したり、曲がっている梁に合わせて壁や扉を作ったり、出来る限り自分たちの手でリノベーションしました」
こだわりのコーヒー豆とスイーツ
「オーガニカコーヒィ」が提供するコーヒーは、世界各地の有機栽培されたコーヒー豆のみを使用。機械焙煎ではなく手網焙煎という手法で焙煎しています。また、妻の愛美さんが手がける焼き菓子やケーキは、保存料や着色料、香料などの添加物をできる限り使わず、一つ一つ丁寧に手作りしているそうです。
「当店が扱っているコーヒー豆は、無化学肥料・無農薬が基本です。落ち葉や刈り草で作った堆肥を使い、自然栽培された豆を使っています。エチオピアやネパール、タイ、ラオス、ブラジル、コロンビアなどで有機栽培された豆が、現地で果肉除去や天日乾燥、脱穀などを行ってから空輸されてきます。スイーツは、粗糖や圧搾一番搾り菜種油、発酵バターなど厳選された材料や素材を使用しています」
将来は自分たちの農園のコーヒー豆を届けたい
笹田夫妻は、ネパールのバグマティプラデーシュ州というチベットから約50kmの秘境の村に、コーヒー農園を所有しています。
「たびたびネパールを訪れていたとき、小学校にも通えない子どもや、市場まで片道8時間かけて歩いている村人の姿をみて、自分たちにも村の人たちと一緒にできる仕事や手助けできることがないかと思ったんです。村人に必要な現金収入として農業での収入を考えて水道管を通し、コーヒーの植樹を始めました。100家族ほどが苗を植えてくれて、現在は現地のスタッフに栽培を任せています。でも彼らは精製方法などについては知らないので、状況が落ち着いたら現地に教えに行こうと思っています」
オープンからわずか数か月しか経っていない「オーガニカコーヒィ」ですが、早い時間にケーキが売り切れたり、遠方からお客さんが訪れたりと人気店となっています。店の今後の目標などについて聞きました。
「地元の方々に愛していただけるようなお店にするのが目標です。今は地元のお客さんとSNSなどを見て来てくれるお客さんが半々ぐらいなので、もっと地域の方々に来ていただけるようにしていきたいです。5年ほどしたら自分たちの農園のコーヒー豆ができてくるので、その生豆をこのお店からさまざまな場所に届けたいですね」