「男女男男女男女♪」
シンプルなサビながら、一度聴いたら頭から離れないメロディーが2006年、インターネット上で話題になりました。当時、若者の間で一大ブームとなった楽曲「男女」を生み出したのは、歌手の太郎(本名:福川太郎)さん。現在は岡山県倉敷市に移住しており、10月26日に念願のデニムジャケットショップをオープンしました。「やりたいことは元気なうちに」をモットーにする太郎さんに、デニムへの熱い思いを聞きました。
男女でデニムをかっこよく
茨城県出身の太郎さんが、「理想のデニムジャケットをつくりたい」という思いで、デニムの産地・児島に移住し、立ち上げたオリジナルブランドが、“男女でデニムをかっこよく”がコンセプトにした「ダンジョデニム」。
代表商品は「ダンジョデニムジャケット」。シュッとしたスマートなシルエットと丸みを帯びた襟元と裾元は、クールな見た目ながらも、物腰が柔らかい太郎さんの人柄まで感じられるようです。襟と身頃が一緒の生地で作られたすっきりしたスタンドカラーや胸元の片玉縁のポケットはベトナムのアオザイや学ランを思い起こさせますが、型にはまらないオリジナルデザインには、太郎さんの理想のスタイルが詰め込まれています。
付加価値のついたジャケットを長く身に着けてもらいたいという思いから、袖丈の長さやボタンの色などはパターンでオーダー注文もできるようにしています。
「理想を求めてこだわった結果、手間な工程が多いけど、自分で考えて、自分でやる分には、もともと熱量があるから、苦にならないですね。自分のやりたいを極めていった感じです。結果、それいいねって言ってくれる人がいるから、ラッキーです。やりたいことをやるのは、多少ハードルは高くなりますけどね」
10月26日にオープンした店舗は、倉敷市下津井、瀬戸大橋のたもとにあります。瀬戸内海に面した通りの一本裏道にある、古民家を改装したなまこ壁の店舗に入ると、デニムジャケットがずらり。通常は週1回の営業(毎週日曜午後1時~5時)で、縫製の様子を多くの方に見てもらいたいという思いから、店舗には工房も備え付けられています。
デニムジャケットに惚れ込んで26年
太郎さんとデニムジャケットの出逢いは高校1年生の時。部活の先輩が着ていたデニムジャケット姿に「かっこいい」と憧れ、自身もデニムジャケットを着始めます。
「毎日着ていましたね。夏も、卒業式も。夏、暑いですよ。もともと人がやりたがらないことをするくせがあるんですよね(笑)」
デニムジャケットへの情熱は社会人になっても消えることはありませんでした。大学卒業後、東京で電機メーカーのシステムエンジニアや学校の事務職員として働いていましたが、以前から興味のあった音楽活動に専念するために退職。一躍ブームになった「男女」を生み出しました。その音楽活動中の衣装も、自分でデザインしたデニムアイテムだったそうです。
音楽活動中、ミュージックビデオの制作のため、手作りのデニムアイテムを身に着け、42日間をかけて東京タワーから児島駅前までの1008kmを歩き、デニムの色落ちをチェックもしたこともあったそう。
「デニム衣装が色落ちしていく日々の変化をパラパラ漫画みたいに記録して、配信したらおもしろいんじゃないかなと」
ジーンズの作り方を学ぶジーンズ縫製実践講座が倉敷市児島で開催されるのを知ったのはその時だそうです。講座を受講した翌年の2017年8月、児島に移住。自分の理想のデニムジャケットをつくるために「ダンジョデニム」を立ち上げました。
「児島ならデニムジャケットをつくれると確信したので、特に迷いはなかったですね。どんどん時間が経って、僕も年老いていくのは確実で……。やりたいことは元気なうちにがモットーなので!」
企画・デザイン・パターン・裁断・縫製・販売をすべて1人で手掛けるほか、縫製業のおもしろさや魅力を届けるYouTubeチャンネル「縫製ばぁ」のメンバーとして、町おこし団体「下津井シービレッジプロジェクト」のメンバーとして、また高校や大学で講演を行うなど、忙しい日々を送っています。
「やることが多くて忙しいですけど、苦痛ではないです。自分で決めたことだから、大変なことがあっても、やりきれます。やりたいことを積み重ね、楽しそうならやってみる。今までやりたいことは一通りやってきました」
縫製業界に光を
「縫製業界って今、なり手が減ってきて、高齢化してきているんです。国内の作り手があまりいなくなってきたら、自分みたいな人が重宝されるのかな。今後、縫製業もAI化される部分もあるかもしれないけど、僕の代わりにロボットが作ってくれるようになったら、仮に僕が死んだ後もこのデザインを半永久的に残していけるのかなと思います」
この秋、「縫製ばぁ」の動画配信を見た大学生が、縫製に興味をもち千葉県から児島に移住してきました。太郎さんの縫製とデニムへの情熱が人を呼んできたといっても過言ではないかもしれません。
「移住して、素人からデニムジャケットを作るっていう、体を張って何かをするということがあったから、こうやっていろんな人とつながれたのかもしれません。縫製業は、男の人が多くないので、わりと歓迎されるんですよ。縫製に興味をもってくれる人が増えるといいですね」
デニムジャケットのかっこよさに惚れ込んだ太郎さんの話を聞いていると、筆者も自分の正直な気持ちに耳を傾け、好きを極める自分の道を歩いてみたくなりました。
一度聴いたら頭から離れない楽曲「男女」のように、一度手にしたら何年たっても着続けられるダンジョデニム。「老若男女問わず、着ればそれだけでかっこよくなれるデニムジャケットをつくりたい」という情熱と愛が、1着1着にぎゅっとつまっています。