JR四国の観光列車「伊予灘ものがたり」。愛媛県内を走る、レトロモダンな2両編成の観光列車です。JR松山駅から伊予大洲駅・八幡浜駅間を土日祝に1日4便運行し、多くの人たちに愛されています。現行車両は老朽化のため、2021年12月にラストランを迎え、2022年春にリニューアル予定です。
多くの人たちの思い出を乗せて走る、伊予灘ものがたり。アテンダントとして同列車に5年間乗務、今は本社・ものがたり列車推進室に所属する、山田麻里子さんの思い出に触れてきました。
観光列車「伊予灘ものがたり」とは
伊予灘ものがたりのコンセプトは「非日常を味わう」。乗客は、景色を楽しみながら、愛媛のこだわりが詰まった食事を楽しんだり、愛媛ゆかりの上質な伝統工芸品で飾られた車内で過ごしたりすることができます。
車両の色はオレンジと赤。夕日をイメージしたカラーリングになっています。また、無人駅かつ夕日で有名な「下灘駅」での停車時間を楽しめるのも魅力の1つです。
「伊予灘ものがたりの魅力は、愛媛の良さが詰まっているところ。そして何より人の温かさを感じられる点ですね」
山田さんはじめ、乗車する人たちの“心温まる思い出”として挙げられるのが、走行する伊予灘ものがたりに向かって手を振る人たちの存在です。「ようこそ!」と描かれた手作りの看板を持っていたり、お揃いのシャツを着ていたり、「たぬき駅長」という着ぐるみを着た強者もいるほどです。
「こちらは、私たちJR四国が依頼をした訳ではありません。沿線に住む地域の人たちの“自発的なおもてなし”なのです。伊予灘ものがたりが運行する南予地域は、温厚な人柄と四国遍路からのお接待文化が相まって、このようなぬくもりあるおもてなしが誕生したのだと思います」
山田さんたちアテンダントは、土日祝の乗務日以外でも、沿線で手を振る人たちに挨拶をしに行ったり、話を聞きにいったりしながら、交流を深めてきました。雨や雪など天気の悪い日でも、おもてなしを欠かさない人たちもいるとか。山田さんは感謝の気持ちを口にします。
「皆さん『みんなの笑顔があるけん。ただそれだけでやりよるんよ』とか『生きがいなんよ』と言ってくれるんです。ありがとう、というのはこちらの方なんです」
現行車両にたくさんの思い出が詰まっている山田さん。接客した客の笑顔、沿線で協力してくれた地域の人たちの笑顔、そして共にアテンダントとして頑張ってきた仲間たち。運行に関わった人たちと、全てを運んでくれた現行車両への感謝を表すと同時に、少しばかりの寂しさをにじませていました。
愛されているものを、継続しながら引き継いでいく
「これで終わりではないんです。次に続くスタートでもあるんです」
現在、山田さんは本社のものがたり列車推進室で、2022年春にリニューアルを予定している伊予灘ものがたりの企画・立ち上げに携わっています。デザインや料金設定、ダイヤなどの、関係部署や現場との打ち合わせ・調整を行っています。
JR四国の10月の発表によると、これまで2両編成だったものが3両へ。定員8名のグリーン個室が追加され、海向きのテーブル席に座ると伊予灘を満喫できる作りになっています。「これからも愛され続ける車両であるよう」という思いを込めて、現行車両のデザインを継承しつつ、細やかなインテリアの改良を行っています。
「愛されているものを、継続しながら引き継いでいかなくては、という思いをもって業務に当たっています」
これまで乗車してくれた客の笑顔や、沿線で手を振ってくれた地域の人々の思いをしっかりと受け止め、「コンセプトは変わらずにサービスはレベルアップする伊予灘ものがたり」に向かって、山田さんは日々奔走しています。
現行車両のラストランは、2021年12月27日。当日の乗車券は、1か月前となる11月27日10時、みどりの窓口とJR四国ツアーのサイトで販売が予定されています。当日のことを聞くと、「まるで、我が子の卒業式と入学式を迎えるかのような気持ちですね」と山田さんは笑顔で話してくれました。