稲刈りが盛んになる9月中旬から10月初旬にかけて、岡山県奈義町を車で走っていると、田んぼきれいに一列に並べられた、大きなマシュマロのような物体を見かけます。
「おいしい牛を育てるには良質な稲が必要なんよ」と町内の農家さん。この巨大マシュマロにはなぎビーフが関わっていました。
巨大マシュマロの正体
田んぼに並べられた直径と高さ1mほどの白い巨大マシュマロの中身は「稲」です。
稲穂と茎葉のすべてを専用コンバインで刈り取り、円筒状に固め、ラッピングマシーンで白いラップを巻いたもの。これが巨大マシュマロの正体で、「稲ホールクロップサイレージ(以下、稲WCS)」と呼ばれます。中の稲は牛のエサになるそうです。
「牛のエサとなる稲WCSが作れるのも、地元の米農家さんが育ててくださるおかげです」
稲WCSを作っているのは、町内の酪農家「勝英コントラクター組合」の皆さんです。
40アールの広さの稲を刈る、ラップを巻く、個数を示す数字を書くという作業を、組合員4人で役割分担。約1時間半で45個の稲WCSが完成します。
この稲WCSは、約1か月間乳酸発酵され、畜産農家さんが持ち帰り、エサとして牛に与えられます。
乾いた稲わらを丸めた「稲わらロール」も
また、同じ日に町内を車で走っていると、稲WCSとは別の円柱状のロールも見かけました。
「この稲わらロールは牛のエサになるんよ」
稲刈りの後に残る乾いたわらを巻き、稲わらロールを作っていたのは、「鷹取長圓牧場」の鷹取さん親子。稲刈りが続く9月から10月、田んぼに残された乾いた稲わらを集めに、町内の田んぼでロールづくりを繰り返していました。
「濡れたり、湿ったりしている稲わらはカビが生えるので、稲わらロールづくりは天候に左右されるんです。牛にはしっかり乾燥した、美味しい稲わらを与えたいですからね」
今にも雨が降りそうな曇り空の日、鷹取さん親子は稲がかき集められた田んぼを次から次に移動し、大忙しで機械を操作していました。
乾いた稲わらはロールベーラーという機械に取り込まれ、直径と高さ1m、約100kgある稲わらロールが完成します。こちらの稲わらもすぐに使われることはなく、約半年置かれてから牛のエサとして使われるそうです。
循環する資源
現在、奈義町には約20軒ほどの畜産農家さんが乳牛や肉牛を育てています。中でも、奈義町で育てられているなぎビーフになる牛には、トウモロコシ、麦、大豆、作州黒がエサとして与えられますが、重要になってくるのがエサの主食になるという稲わらです。
「高カロリーのものだけだと、消化されにくいので、反芻させるには食物繊維がないとうまくできないんです。そのために、良質な稲わらが必要なんですよ。良い稲わらがおいしい肉牛を育てます」
地元の米農家さんの田んぼから取られた稲わらが牛に与えられ、牛から出る排泄物が堆肥化。そして、再び稲わらを収集した田んぼに還元され、その田んぼではこれを肥料としてお米ができます。お米を採った後の稲わらが、再び牛のエサとなり……「耕畜連携」。すべて循環していることが分かります。
田んぼに並ぶ白い巨大マシュマロを追いかけてみると、そこには、地域の畜産農家さんや米農家さんの熱い思いがぎゅっとつまっていました。