美しい衣装に優雅な動き、観る人を魅了するバレエの世界。近年は、日本人バレエダンサーが国際コンクールで活躍することも多くなりました。
今回は、ロシア連邦国立モスクワバレエアカデミー(通称、ボリショイバレエアカデミー)を2021年6月に首席で卒業した中田里桜さんに、アカデミーでの生活や、将来の夢について聞きました。
アカデミーでのハードな生活
香川県出身の中田さん。2017年9月、高校1年生の時に単身ロシアにバレエ留学しました。1年の研修期間を経て、2018年にボリショイバレエアカデミーの正規生徒に合格。それから3年間のアカデミー生活が始まりました。
「大好きなバレエを最高峰の環境で学べることにワクワクする反面、大切な家族と離れること、そしてロシアという異国の地で生活していくことに、留学当時は不安を感じていました」
留学当初、アカデミーでの生活はとてもハードだったといいます。日曜日以外は、毎日午前9時から午後6時半までレッスン、公演前はリハーサルをこなし、すべてが終わるのが午後9時頃になることも。慣れない生活が続き、体調を崩しかける事もあったそうです。
「異国の食生活に馴染めず、瘦せすぎてしまったり、逆に太ってしまう友人もいました。幸い私はなんでも食べることができたのでその点では良かったと思います」
毎日欠かせないのが、筋力トレーニングやストレッチです。中田さんは、自分で考えたトレーニング内容を記載した「バレエノート」を使って、体調管理やトレーニングを続けていました。練習が終わった後、バレエダンサーたちは自主的にこれらのトレーニングを行っているそうです。
正規生徒になってからは高校の勉強も加わり、ロシア語を始めとした語学、数学などを含め約17科目の授業をこなす毎日。バレエの技術や表現力だけではなく、世界で活躍するためには、語学をはじめとする学問も必要とされるのです。
ロシアでは、バレエダンサーは国家資格。資格をとってはじめてアカデミーの卒業を認められます。中田さんは、ボリショイバレエアカデミーを首席で卒業、特別な赤い卒業証書を受け取りました。
「とてもびっくりしましたが、同時に嬉しくて涙が出ました。ボリショイバレエアカデミーの先生方にはとても親切にしてもらい、感謝の気持ちでいっぱいです」
日々のトレーニングと体づくりが大切
アカデミーを卒業しても、中田さんの生活は変わりませんでした。日々のトレーニングと体づくりはバレエダンサーにとって大切な要素なのです。
「食事の時は椅子に座りますが、それ以外は常に床に座ってずっとストレッチをしています。自宅でもバーを使った基礎練習や、ヴァリエーション(ソロの踊り)の練習をしています」
そして食事は、常に野菜を軸にメニューを考えているそう。美しい筋肉を作るためには赤身肉や鶏肉などのタンパク質も欠かせないといいます。そんな中田さんですが、お菓子を食べることもあるんだとか。
「たまには友人とカフェでケーキを食べたりもしています。お菓子なども、ちゃんと考えて食べれば楽しむことができます。また休みの日にはロックミュージックやJポップを聴くんです。レッスン時は一日中クラシックを聴いているので、休みの日には違う音楽を聴いて気持ちを高めています」
バレエを語る時に見せる顔とは異なる、かわいらしい表情をのぞかせてくれました。
海外で活躍するトップダンサーになりたい
そんな中田さんの夢は、海外の国立バレエ団で、トップダンサーである「プリンシパル」として活躍することです。
「現在、バレエ団の入団テストを終え、ロシアの国立バレエ団に就職が決まっています。今はコロナの影響で就労ビザがとれず日本にいますが、就労ビザがとれ次第、ロシアに渡ります」
現在は、留学前に通っていたバレエスタジオで、子どもたちの指導をしながら、手続きができる時期を待っています。
「バレエは総合芸術の1つであり、究極の美だと思います。趣味でも楽しめるし、自分の身体を使って表現し、思いを伝えられることに魅力があります。頭の先から足の先まで全てを意識して、見た目の優雅さとは裏腹に想像以上にハードなんですけど、それをどのように見せるのかというのを自分で試行錯誤していくのも楽しいです」
バレエは、これからも生活の中心であり、死ぬまで一生かかわっていきたいものだと話してくれた中田さん。苦しさも含めてすべて大好きなのがバレエなのだといいます。
バレエが好きでたまらない20歳の女性からは、世界の舞台で活躍する覚悟がにじみ出ていました。中田里桜というバレエダンサーが世界で活躍する日はそう遠くないと、期待せずにはいられません。