砂糖・米粉・白あんなどを使って作られる工芸菓子の展示会が、岡山市の吉兆庵美術館で開かれています。
展示されているのは、本物そっくりな96種類約390匹の生き物たちと、40種類の植物。すべてが、源吉兆庵の工芸菓子職人の手作りです。今回は、その道20年以上の職人、衹園公子さんに、見どころや工芸菓子作りの魅力について取材しました。
2021年で8回目となる展示会。今回は「春・夏・秋・冬の生き物」をテーマにしており、四季折々の植物や、鳥、昆虫、魚などを、さまざまシーンとともに楽しむことができます。
なかでも初登場なのが、かわいらしい猫たち。お家時間が増えるなか多くの人にとって身近な生き物をと、新たに挑戦しました。さまざまな色の生地を平らに伸ばし、細く切って毛に仕立てており、1本1本が丁寧に取り付けられています。
「最初はすぐできるかなと思っていましたけど、やってみると、顔や表情の表現が難しかったです。1本1本の毛をつけていくのにはかなりの生地の量が必要で、それが意外と大変でした」
衹園さんが制作した「三毛ニャンジェロ」は、三毛猫では珍しいオスをイメージして作っていて、口にはアユをくわえています。このアユも、バーナーで炙って焼いた感じを再現するなど、細部までこだわりがつまっています。
工芸菓子は、文字通り芸術であるため、決まった型がありません。題材やコンセプト、生地の色づけや創作、キャプションの見せ方まで、全て職人の手で行われます。このため、職人には美術や生き物などをはじめとした、世の中のさまざまな題材を日々研究し、自己啓発していくことが求められるといいます。
また、鑑賞用といっても食べ物に変わりはないため、保管にも注意が必要です。高温多湿だとカビが生えてしまったり、乾燥させすぎると割れてしまったりします。展示する最後の最後まで気が抜けません。
「破損をしないように、展示するときにひっくり返したらおしまいということで、みんなドキドキしながらやりきっています(笑)」
そんな一流職人の1人で、一級菓子製造技能士という国家資格も持つ衹園さん。もともとはパート勤めで、お菓子作りは全くの未経験でした。異動で工芸室に配属されたあと、徐々にその魅力にのめりこみ、社員になり、さらに腕を磨いて、定年まで工芸室長を務めました。
「物を作るのは(元々)好きだったのかなと思います。いろんなことを自分で考えて、決まりきったものじゃないのが良かったのかもしれません」
決まりがないからこそ、自由に表現し、奥行きを出していける。そんな職人たちの感性に思いを馳せながら作品を見てみると、また違った見方で楽しめるかもしれません。
「お菓子でできた春・夏・秋・冬の生き物展」は8月25日まで、岡山市の吉兆庵美術館で開かれています。(大人400円、高校生以下無料)