新型コロナウイルスの感染拡大によって、イベントやコンサートが中止・延期となり、多くの芸術家が活動の場を失いました。作曲家・大森愛弓さんもその1人です。留学先のパリで開催された音楽コンクールでファイナリストに残っていたものの、決勝そのものが中止となりました。
帰国した大森さんは、瀬戸内海にある兵庫県の淡路島で「音楽島」プロジェクトに参加。作曲家としてのスキルを生かしながら「音楽島」で働く、大森さんの今を聞きました。
コロナ禍で奪われた決勝の舞台
大森さんは9歳で作曲を開始。ファンタジーの世界観に興味を持ち「物語のような曲」をイメージして作曲活動を深めました。2018年、作曲家としての幅を広げるため総合的に芸術を学ぼうとパリへ留学し、映画音楽を学びます。
アニメーションからインスピレーションを得て、作曲を追及。ドヴォルザーク国際作曲コンクールの自由形式部門で最優秀賞、総合3位を受賞するなど、確実に成果を残していきました。
留学2年目、大森さんは第23回ヴァロンス国際映画祭の音楽コンクールに出場。アジア圏で唯一のファイナリストに選ばれました。しかし決勝はコロナ禍のため中止になってしまいました。
決勝は、48時間以内に映画を分析して楽譜を作り、音楽エンジニアと組んでアドバイスを受けながら曲を仕上げるスタイルで、“現場”ならではのコミュニケーションが重視されるもの。コロナ禍において延期やオンライン化は不可能と、審査員側が判断したのです。
「世界へ羽ばたくための登竜門・決勝戦の存在を振り返ると『もしもいい賞が取れていたら、国際的な映画音楽の作曲家として、キャリアが始まっていたかも』と考えることもありました」
作曲家としてできることを探し、「音楽島」と出会う
そして大森さんは2020年7月に日本に帰国。キャリアを生かせる仕事を探し、「音楽島」のサイトを見つけました。
「音楽島」とは、“コロナ禍で活動舞台を失った音楽家のため”のプロジェクトです。兵庫県淡路島にあるパソナグループ関連の飲食施設などで、生演奏を披露したりスタッフとして勤務したりしながら、音楽家としてのキャリアを生かして働くもの。ダブルキャリアが可能なので、生活を守りながら音楽活動も継続できるプロジェクトでした。
「作曲家として『映像に音楽をつける仕事』なら、音楽島でできるかも」
大森さんは作曲家としてできることをスタッフと相談しあい、音楽島に参加。島内にあるレストランでピアノ生演奏をしたりスタッフとして働きながら、作曲家としての時間と環境を確保しています。
音楽の途切れない島で、ファンタジーの世界を生み続ける
大森さんは、パリでの学びを生かしながら「1音・1秒ずつ、自身が最もわくわくする音を選択」して作曲を行っています。淡路島で参加した仕事の1つに、ハローキティをテーマにしたレストランでのアトラクションがあります。空間を彩るプロジェクションマッピングに合わせて、大森さん作曲の“映像に合わせた際に効果を発揮する、面白い音楽”が流れています。
「ファンタジーの世界を構成する、音楽と映像。この空間を体験するお客さんの感動を作ることが、作曲家の役割でもあります。訪れた家族が嬉しそうに歩く姿には、私が感動しています」
また、音楽島に参加するメンバーの存在も心強いと、大森さんは語ります。
「ここには『これから何ができるだろう』と、前向きな気持ちで取り組む人が多くいます。実際、淡路島の施設では、イベントやコンサートが延期になったとしても、中止にはなりません。また次があります。島のどこかで音楽はあるし、途切れないんです」
音楽家にとって“次”という可能性に満ちている、音楽の途切れない島。大森さんの生み出すファンタジーの世界が、ここ音楽島で響き渡っています。