飲食店の苦境が伝えられる“その裏”で 長引くコロナ禍に街の酒屋は何を考え、実行に移したのか 大阪・北区

飲食店の苦境が伝えられる“その裏”で 長引くコロナ禍に街の酒屋は何を考え、実行に移したのか 大阪・北区
社長の中山正章さん(右)と息子の洋二郎さん

新型コロナウイルスの影響が特に顕著な飲食業界。度重なる時短・休業要請に伴うその苦しい台所事情は、もはや社会の共通認識になりました。一方で、飲食店との結びつきが強い酒販の世界にも打撃があったのは想像に難くありません。

多くの買い物客でにぎわう大阪・天神橋筋商店街近くの住宅街で営業する酒蔵なかやまも、コロナ禍を受けて経営を見直すことになった酒屋のひとつ。飲食店の窮状が大きく報じられる裏側でどのような戦略を練り、前に進もうとしているかに迫りました。

“ステイショップ”がもたらした気づき

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2022年に創業100年を迎える酒蔵なかやま。飲食店からの信頼も厚い老舗は、大阪市内一円に1000軒超の取引先を抱え、業務用が売上全体に占める割合は実に9割に上ります。それだけに飲食店での酒類提供に規制がかかったことは、はっきり数字に表れました。

「ほぼ飲食店の売上だったので、そこが落ちれば当然。締めつけられたら下がるし、規制が緩和されたら8割、9割に戻ったこともあるし。とにかくもう政府の方針次第で」

社長の中山正章さんがそう語るように、経営努力のおよばないところで苦しむ状況は1年以上も継続。とりわけ緊急事態宣言の期間中は、飲食店への配達業務が激減しました。スタッフにとってみれば外に出る機会のない、異例の「日常」。店で過ごす時間が長くなった結果、自然と一般の消費者の動向に目が向くようになったといいます。

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「この周辺、すごい住宅街なんですけど、ここが酒屋っていう認識がいままであまりなくて。でも、コロナ以降は近場に散歩やジョギングに出る人が増えた。で、いっぺん入ってみようって人が多くなりましたね(息子の洋二郎さん)」

もともと15年ほど前から、店舗での小売にも注力するようになっていた酒蔵なかやま。スーパーやコンビニに対抗すべく、日本酒と焼酎に特化した量より質の店づくりを進めており、飛び込みや紹介を通じて開拓した蔵元は日本酒だけでも3、40軒を数えるほどでした。

築き上げた「資産」をさらに活かし、一般客にもいい酒に親しんでもらおうと、まず着手したのは店舗の改装です。陳列棚をすべて入れ替え、充実したラインナップを手に取りやすいようにしました。

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また、懇意にしている飲食店がつくったアテを販売したり、オンラインストアを開設したりと、家飲み需要に即した取り組みを矢継ぎ早に実践。客との接点強化を目的に、旧知の地酒専門店と共同で近隣の市場での出張販売も開始しました。いずれもコロナというきっかけなしには、手つかずになっていた領域でした。

地域の人が店を「再発見」した結果、その運営体制を再整備することに成功した中山さん親子。そのかたわらでは、客との関わりの中身にも変化が出てきたといいます。

飲食店や蔵元と培ったノウハウをより広く

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酒蔵なかやまでは、かねてから飲食店での試食会に商品を持ち込んでは、料理との相性を確かめる形で営業活動を展開してきました。味のプロとの地道な共同作業で、旬の食材に合った酒をあぶり出す。そこで培われた経験値はそのまま別の店への提案力に変わり、酒屋としての大きな強みになっていました。

ただ、これはあくまで飲食店との関係性に限った話。日々の配達に追われていたこともあり、得られた知識を積極的に店売りに反映させようとまでは考えなかったそうです。しかし、一般客と向き合う時間が増すにつれ、自然と接客のありようはバージョンアップを重ねていきました。

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「僕らも目線が変わりました。飲食店とだけやっていた内容を一般の人にも伝えられるやんって発想が。店舗をもっと強化する感じです。完全に分けなくていいやんって(洋二郎さん)」

従来は飲食店を介して酒の魅力を伝える格好だった老舗の意識改革。スーパーでも簡単に地酒が手に入る時代にあって、酒蔵なかやまは銘柄の豊富さに留まらない付加価値、すなわち酒の楽しみ方を提案する役割をまっとうすることで、存在意義を高める方向へと舵を切ったのです。

蔵元とのやりとりがリモートに移行したことも、一連の動きを加速させています。兵庫県内の5つの酒蔵が連携し、酒蔵なかやまをはじめとした酒屋と共同で日本酒の飲み比べセットを開発するHyo5Kura(ひょうごくら)プロジェクトは象徴的な事例。Zoomでのミーティングを繰り返すたびに、それまでの先入観が取り払われていったといいます。

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「行かないと分かれへんっていう固定観念でやってたんですけど、意外とZoomの方が製造工程なんかが分かりやすいこともあって(洋二郎さん)」

「蔵元さんがZoomを使ってくれるおかげで、いままでは見学ツアーを組まな現場が分かれへんかったんが、いずれ店で気軽に見てもらえるようにもなる。可能性がすごく広がりました(正章さん)」

「現場主義」にこだわらずとも、商いに必要な情報収集はできる――これまで顔を付き合わせて構築してきた信頼関係に柔軟性が加わった結果、コミュニケーションはより密なものになりました。

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そして、その成果を広げる先は、やはり草の根で地酒文化を支える一般客。より開かれた酒屋こそが、酒蔵なかやまが描くアフターコロナの立ち位置なのです。店の次代を担う洋二郎さんは、こんな言葉で前向きにインタビューを締めくくってくれました。

「コロナ前までは忙しすぎて気づかんかったことがあって。9割の飲食店にも、蔵元にも変わらずきちんと向き合うんですけど、これからは経験値を活かしながらもっと発信力をつける。店での接客とか、SNSとか使えるツールは使って、地酒の文化を正確に伝える。そういう酒屋を目指したいと思いますね」

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