「人生、アドリブやな。そのとき、そのときのアドリブやろ?」
軽やかな口ぶりでそう語るのは、大阪・玉造の商店街に店を構えるパンと洋食の店・トロイカ&リビエラの久米一弥さん。早朝から深夜まで働くバイタリティと持ち前のサービス精神で、玉造という街に確かな存在感を示してきました。
近年は、食パンのパッケージにあしらわれた「リビエラちゃん」のイラストがレトロでかわいいと話題に。それを受け、Tシャツやトートバッグといったオリジナルグッズも販売するなど、時代の趨勢に合わせて店は常に進化を続けています。自らが置かれた状況を楽しむかのように「アドリブ」を続ける久米さんに話を聞くと、決してぶれることのない行動指針が見えてきました。
“死ぬほど働こう”が、地域との“セッション”に変わるまで
久米さんは徳島県出身。老舗ベーカリー、洋食店での住み込みなどを経て、当時大阪市内や近郊に複数の店舗を展開していた、トロイカ&リビエラへと籍を移しました。もともとのオーナーが飲食業から撤退するにあたり、玉造の店の経営を引き継ぐ形で独立したのが30年あまり前のことです。
「ここ、ハコおっきいやん。自分にできるか分からんかったけど、無理やりそれを動かせばいい。動き出せばどないかなるみたいなんで、始まったんやけどな」
「不安とかいっぱいあったけど、よくあるやん。死ぬ気で働いてみいとか。でも、死なない。だから、ほんまに死んでしまうくらい働いてみようって」
独立からの仕事ぶりをこのように振り返ってくれた久米さん。バブル崩壊、リーマンショックという荒波をかいくぐり、7、8年前からは従業員を雇うことなく、完全に1人で店を切り盛りすることになりました。
そこからは単独でも営業を続けられるよう足場固めに腐心。「こんなおっきい店いらんやん」と移転を勧める声もありましたが、3階の工場でパンを焼いていたのを1階で完結できるよう機材を導入し、上下移動の回数を減らすなど、愛着ある店を守るために知恵をしぼってきました。
ただ、そうまでしても多忙な毎日は変わらず、店に寝泊まりするほど働き続けた久米さん。はた目から見ても心配になったのか、声をかけてくれたのが常連客や近所の人でした。
「会社勤めの人が昼休みに来て、『今日の買いもんは?』って聞いて、買ってきてくれるとか。メニュー表もお客さんがつくってくれた。インスタとかTシャツも。それで俺はここで仕事に専念できるわけよ」
還暦を迎え、人に頼めることは頼もうと達観するまでの流れを「余裕がないように見えるからちゃう?」と笑いつつ、感謝の色をにじませて説明してくれた久米さん。現在のトロイカ&リビエラは、いわば久米さんと地域との共同作業で成り立っている店なのです。