岡山県浅口市寄島町国頭(くにとう)。南には穏やかな瀬戸内海が広がり、北側の傾斜部には車が通れないほど細い路地が繋がっています。少し上がってみると、昔ながらの家並みと穏やかな海の風景が広がります。
2021年4月、国頭の住宅地から竜王山山頂(標高289.2m)まで、里山の尾根を歩く約2kmのトレッキングルートが開通しました。途中にある展望台からは瀬戸内海が見えます。
トレッキングルートはもともと雑木・雑草に覆われていましたが、幅1~2mほどの道が切りひらかれました。「くにとうの御船を守る会」のメンバー、村上宏一郎さんによると、整備作業は今から約3年前、地元の男性がスタート。2021年1月から村上さんも手伝うようになりました。実はこのルート、約50年前にあった道を再現したもの。幼いころに遊んでいた道を思い出し、再現したのだといいます。
トレッキングルートの入口付近には、アジサイ畑が見頃を迎えていました。
海が見えるアジサイ畑
アジサイは、花が好きで自宅でもたくさんの草花を育てている村上さんが2019年に挿し芽をし、植え付けの準備から行いました。
荒れた畑を整え、2020年に植え付け。2021年もアジサイの数を増やしながら育てています。訪れた時には6種類のアジサイが咲いていました。
「まだ背が低いけど、来年はもっと大きくなりますよ。フライングで今年、公開してみました。アジサイが大きくなる過程がみんなで楽しめるからいいかな?」と村上さん。
「雑草がほぼなく、どうやって手入れしてるんや、と思うよ」と、ほかのメンバーが丁寧さをほめるくらい、美しいアジサイ畑となりました。
車道からは見えない、知る人ぞ知るアジサイ畑。もともと荒れた土地だったとは思えない、美しい公園のようなスペースです。ベンチが設置され、のんびりと瀬戸内海の風を感じることができます。
たくさんの花がある中でなぜアジサイにしたのかというと、「病気が少なく手入れが楽だから」とのこと。そして、寄島町近辺でアジサイの名所がなかったのもポイントでした。海と家並みと色とりどりのアジサイ。今後、有名なフォトスポットになっていくかもしれません。
くにとうの御船を守る会
2017年に結成された「くにとうの御船を守る会」は、地区に空き家が増え、少子高齢化が進む現状から賑わいを取り戻す活動を行っています。大浦神社の秋の大祭の神事である御船巡行行事を国頭地区が行っていることから、祭りを継続できるよう過疎化を食い止めたいという思いで名付けられました。
活動のきっかけとなったのは、地区で取り組んだ防災マップの作成。「もともとは有事に人が住んでいない家には声をかけなくても済むよう、地区で空き家を把握しておこうという考えでした。実際に調べると、思いのほか空き家が多くて驚いたんです」と、くにとうの御船を守る会・代表の笠原宏之さんは振り返ります。
かつては「国頭銀座」と呼ばれるほどにぎやかな通りだったのに、今は空き家がたくさんで、人口も減っている……課題を見つけたのをきっかけに、空き家の利活用から挑戦しました。
2016年度、岡山県備中県民局の「人づくり・地域づくり応援隊事業」に採択され、県内の大学生12人と空き家の活用方法を検討。地区外に住む若者のアイディアに刺激を受けたといいます。2017年度には引き続き大学生と空き家の掃除を実行。たくさんの人出がある「よりしまかき祭り」と同日、大学生のアイディアを取り入れ、空き家を拠点にスタンプラリーや物販、地元の中学生によるミニコンサートなどのイベントを開催しました。
イベントで活用した拠点のひとつ、旧寄島ランドリーはもともとクリーニング店だった建物。現在は「ちょっと寄ってぇ家(や)」という名前の、気軽に立ち寄れるオープンスペースとなっています。中には住民が持ち寄った本がずらりと並ぶ本棚が。トレッキングマップも置かれています。
地域で生まれたコミュニケーション
空き家の利活用からスタートした、くにとうの御船を守る会。「国頭の良さを体験してもらったら、住んでみたいと思ってもらえるはず」と、徐々に活動の幅を広げていきました。耕作放棄地を開墾して農業体験用の畑を準備したり、トレッキングルートを開通したりしたのも、そんな思いから。ホームページを作成し、SNSでの広報にも力を入れています。
「数週間前に通ったときと、だいぶ感じが違うなぁ」
海が見えるトレッキングルートがあると聞き、登山好きな方たちが訪れるようになりました。登山客が通ることで土がしまり、より歩きやすい道になっていきます。
まっすぐ続く坂道を歩いて行くと、第一展望台が。その約100m先には第二展望台。鳥よりも高い位置から、田んぼ、きれいな三角形をした青佐山、瀬戸内海を一望できます。
くにとうの御船を守る会・代表の笠原さんは「住んでいる人が少なくなると、地域内での会話が減るのも気になっていました。アジサイ畑ができたらしいよと、話のきっかけになるのがいいですね。また、訪れた人と話すことで、暮らしている人も元気になります」と地域で会話を生む大切さを教えてくれました。
「訪れてトレッキングルートやアジサイ畑を探してる人に、暮らしている人が自然と道案内をしている姿を見るのが嬉しいんです」と村上さん。
会話が生まれることで、地域全体がより開放的な雰囲気になってきたように感じるといいます。移住を検討する人にとって、地域の雰囲気は大切なポイント。
訪れる人との関係性を築きながら進める地域づくり。来年、さらに大きくなったアジサイは、どんなコミュニケーションを生みだすでしょう。