今にも動き出しそうなアゲハチョウ。この作品は、身近にある紙やハサミを使用し切り抜き作り上げていくアートで、ポップアップクラフト(切り絵)と呼ばれる。
誰でも気軽に始めることが出来るこのアートの魅力に惹かれ、ポップアップクラフトクリエーターとして活躍しているのが、岡山県津山市の梅田直人さん。PTA主催の親子イベントや美術館、介護施設等で講師として活動を行っているほか、コンテストへの参加など、精力的に活動している。
「切り絵は、日本のわびさびの心に似た瞬間の芸術なんですよ」と話す梅田さんに、作品づくりのきっかけやこだわり、そしてポップアップクラフトの魅力について尋ねた。
ポップアップクラフトとの出会い
学生の頃から美術が好きで、「切り絵はたまにやっていたんです」という梅田さん。会社員のかたわら、小説家として本を執筆していた。そんな日々を過ごす中『ポップアップの作り方(ポール・ジャクソン著)』という本を手にしたことがきっかけで、2017年から独学でポップアップクラフトを学び始めた。
久しぶりに切り絵に挑戦したところ、思った以上に上手く出来てしまい自分でも驚いたとか。それからはどっぷりと切り絵の世界にはまってしまった。
作品づくりへの思い
「美しいものが好き」と話す梅田さんの作品はどの作品も輝いており、見る人の心を引き込む。取材をした日、即興で作品作りの様子を見せて欲しいとのリクエストに、下書きもなしにハサミで切り出す梅田さんの姿があった。
「1つとして同じものは作れないんです。そして、終わりがない。そこに作品作りの魅力がある」と梅田さんは話す。
梅田さんの作品は、切り出しだけでは終わらない。出来上がった切り絵はアプリを使用して加工することで、新たな現代アートとしてさらに作り上げられていく。
「大切なことは好きになること。上手になることではない。切り絵は、脳の発達の重要な時期にバランスよく働きかけてくれる、すばらしい理想的な遊びだと脳科学者が話をしています」と梅田さん。新型コロナ禍で、特にスマートフォンやゲーム機が遊びの主流となっている子ども達にとっても、切り絵はとても良いものだとも語ってくれた。
人と人との繋がりで広がっていくポップアップクラフトの世界
「ポップアップクラフトを始めて多くの人との出会いと繋がりが出来た。その人々がいるからこそ今の自分がいる。感謝の心は常に忘れない」と話す梅田さん。
教えることが好きということもあり、ボランティアとして講師を始めた。初めのうちは、思うような活動が出来ずにいたがコツコツと諦めずに続けていた。
そんな中、親友が梅田さんのことを奈義小学校の関係者へ紹介。そこで講演会を行ったことがきっかけで、講師としても多方面から声がかかるようになってきた。
また、2020年にはアート鑑賞アプリ「Mellow」の運営会社が開催したコンテスト「Mellow art award2020」(「美術手帖」運営協力)に出品し、25以上の国・地域、約1万3千点の応募作品の中から、入賞作品に選ばれた。
入賞後からは一段と周囲からの評価も上がり、さまざまな場所で作品の展示を行ってもらえるようになってきたそう。
「ポップアップクラフトと出会ってから周囲からも認めてもらえて自分自身、今が一番輝いている」と、梅田さんは笑顔で語ります。
切り絵は、間口の広い『芸術』
そんな梅田さんに今後の目標について尋ねた。
「1番は講師としての活動をもっと行って、たくさんの人にポップアップクラフトを広めていきたい。切り絵は、安い材料でいつでもどこでも誰でも出来るという間口の広い『芸術』です。あらゆる年代の人に挑戦してほしい」
新型コロナ禍で以前のような活動は出来ないと梅田さんは残念な様子。しかし、この状況だからこそ、新しいことを始めるきっかけもあると感じていて、新たなコンテストへの挑戦や個展の開催も検討中とのこと。
多くの都道府県で緊急事態宣言が発令され、ステイホームせざるを得ない中、身近な材料で取り組める切り絵という『芸術』。この機会に1度挑戦してみてはいかがだろうか。