香川県高松市の路地裏に、アニメやゲームなどの人気キャラクターを模した人形や動物の置き物など数十体が並ぶ一角があります。その場所は、通行人がつい足を止めてしまうような不思議な雰囲気を醸し出しています。
これらを制作したのは、路地沿いの民家に暮らす松川暿説(よしのぶ)さん。話を聞いて見えてきたのは、病気に負けず、人生を笑顔で楽しもうとする松川さんの情熱でした。
材料はすべて廃材
この一角には、松川さんが考案した作品のほか、子どもたちのオーダーに応えて制作したものも並んでいます。
「最近は動くものを作っている。子どもたちが喜ぶからね。遊んでもらうために、材料を買ってもいいかなと思いながらも、やっぱり廃材で作るのが、わたしの主義やから」
作品は、すべて廃材が材料になっています。もともと八百屋を営んでいたため、市場で野菜を仕入れた時に使う発泡スチロールや段ボールが家にあふれていたのです。
「病気の治療にはお金がかかったから、家にあるもので作り始めた。発泡スチロールの箱を切ったり、段ボールを使ったり。あとは、古新聞を溶かして使ったこともあるよ」
痛みを紛らわせるために手を動かした
「今でも痛みはあるから、眠れないときは、手を動かしている。小さいものだと1日でできる」
2005年に大腸がんを患った松川さん。夜中に痛みで目が覚めることが多くなり、痛みを紛らわせるために始めたのが、作品の制作でした。
当時宣告された余命は3年か長くて4年。病気が判明して人生の終わりが見えた時、最後のスタートが切れたと松川さんは話します。
「残りの人生3年あれば、孫に病気と闘う姿を見せられる。病気を悔やんでも仕方がない。明るく笑えば病気が逃げる、引っ込んでいく、笑いは抗がん剤よりも強いんよ。そう思ってる。とにかく楽しんでるよ」
”あと3年”と覚悟した2005年から16年。大腸は手術で切除しましたが、今も痛みがなくなることはありません。それでも楽しむことや笑うことを忘れずに生きている松川さんの作品は、路地裏の風景を明るく彩り、周りの人を楽しませています。
作品を通して人と人がつながっていく
痛みを紛らわせるためのものづくりは、いつしか松川さんの楽しみにも変わっていきました。登下校途中の子どもは必ず立ち寄り遊んでいく。また増えていく作品を見て声をかけてくる人も現れ、等身大の人形に向かって挨拶をする人もいるといいます。
「通りがかった人が声をかけてくれるし、近所の人は廃材を持ってきてくれる。そしたらまた作る。作ったら次の作品のために、またみんなが材料を持ってきてくれる。そうやって楽しんでるの。廃材で作ったものだから、残るとも残したいとも思わない。みんなの心の中に残ればいいんよ」
作品を通して人との会話が生まれたり、やりとりが起こる。ユニークな作品たちは人と人をつなげる架け橋にもなっていたのです。
何事も「楽しむ」ことを忘れない松川さん。
これからも松川さんは、自分自身も楽しみながら、見る人を楽しませ元気づける作品を生み出していくことでしょう。そして、松川さんが生み出すこの作品たちは、コミュニケーションが希薄になりがちな現代で、人と人のつながりを生み出すきっかけや、場の創出にも成り得るかもしれません。