「“良い水”って何だと思いますか?」
「人や動植物、地球にとって“良い水”とは何か、ちょっと考えてみませんか?」
そう問いかけるのは、CNT(香川県高松市)の専務取締役、佐々木昭さん。自然界の自浄作用によって水をきれいにする「自然浄化法」を利用した、排水処理設備事業などを手掛けています。現在は、カンボジアの小学校で、自然浄化法を利用した循環トイレシステムを作っている最中です。
若い頃には外国航路の無線通信士として世界の海を巡り、古代カヌーで太平洋を横断するプロジェクトに参加するなど、冒険家としての一面も持つ佐々木さん。なぜ“自然”と“水”に魅せられたのか、取材しました。
悪臭が消えた!「自然浄化法」と「師匠」との出会い
「塩素消毒など薬品を使って汚水をきれいにしても、果たしてそれは地球にとって本当に“良い水”でしょうか。僕は疑問に思います。動物も植物も……生きているものは皆、土にかえることで循環します。自然界の自浄作用には必ず“土壌”が関わっていて、そこには“良い水”が生じます」
自然浄化法。それは、東京大学の理学博士だった故・内水護博士が提唱した、「浄化に土壌微生物の力を借りる」という、自然界の営みをそのまま再現する理論です。
1985年、佐々木さんは内水博士と、香川県高松市を拠点とした「塩江塾」をきっかけに出会いました。塩江塾は内水博士を中心とした学びの場であり、悪臭問題を抱えていた畜産業の人たちが、囲炉裏を囲んで膝を突き合わせ、熱く語り合う場でもありました。塩江塾が開講されていた3年の間、佐々木さんは内水博士と行動を共にし、現場で自然浄化法を学んだのです。
「内水先生が牛舎に土壌菌の入った腐植水を撒くと、たった一週間で畜産の悪臭が消えました。次に、牛たちに腐植水を飲ませたら、数か月後には牛舎でほとんどハエを見なくなりました。僕はびっくりして、これはただ事ではない、世の中に広めるべきだ!と思いましたね」佐々木さん、36歳の時の出来事でした。
香川から世界へ! カンボジアの小学校に自然浄化法を届ける
その後、香川県でうどんのゆで汁を排水することによる環境への悪影響が問題になっていたことから、佐々木さんはこの自然浄化法をシステム化することを考えます。そして兄と共に会社を立ち上げ、自身も環境事業部のトップとして奔走しました。
開発したのが「自然浄化法リアクターシステム」。標準活性汚泥法(※)に土壌微生物の働きを加えたもので、処理槽内に設置されたバイオリアクターで土壌微生物を誘導・培養することにより、有機物の分解・浄化を行います。
(※)微生物の働きを利用した一般的な処理方法
このシステムはうどん店だけに留まらず、食品加工工場や飲食店、酪農、し尿処理施設などに幅広く使われています。また採用する施設も四国を始め、全国や海外へと広がっています。
そして佐々木さんはSDGsの1つ「安全な水とトイレを世界中に」を目標に挙げて、熱く語ります。
「今、カンボジアの小学校で、自然浄化法を利用した循環トイレシステムを作っている最中です。ただ、コロナ禍のために最後の一手が押せない。カンボジア内で移動がストップしていて、僕も早く行きたい。この技術は、発展途上国のインフラにこそ、必要とされているはずなんです」
太平洋を横断した経験から得た、地球視点
カンボジアへ自然浄化法を届けようと思った広い視野は、若い時に経験した「野生号3世」への乗船で得たものでした。
「1980年、角川書店創立35周年記念事業として、帆だけの古代カヌーで太平洋を横断するプロジェクトが行われました。その船の名前が、野生号3世。僕は無線通信士として参加しました。5月に下田を出発して太平洋を横断し、サンフランシスコを経由し、南米チリの都市アリカまで航海しました」
この航海を経験した31歳の時に「地球を移動している」という視点を得て、「地球は広い」という気づきから、マクロの視点で地球を見るようになりました。そして、内水博士との出会いで、世界の見方がさらに広がったのです。
「ミクロの世界に、土壌という名の宇宙が広がっていると知り、衝撃を受けました。太平洋横断も、土壌微生物も、同じ地球上の出来事だとね」
師の言葉を胸に、“自然”と“水”に向き合う
佐々木さんは生涯現役を貫く姿勢を見せつつ、水に関わる仕事を「ライフワーク」だと話します。
「60歳の時に会社を立ち上げ事業化しましたが、それは“事業”として成立させないと世の中に広がらないと思ったからです。今回、カンボジアに届けられたように、もっと世界に自然浄化法を広げていきたい。ニーズがある場所には事業が発生しますから」
そんな佐々木さんが道しるべとしているのが、師匠である内水博士の思いです。先生の思いに反することはしたくないと、心に誓っています。
『環境技術は究めれば、自然にかえる』
『佐々木さん、自然を見ないかんよ』
「ああ、先生が言っていたことはこのことか」
困ったことや分からないことがあると、内水博士の言葉を思い出し、佐々木さんはきょうも“自然”と“水”に向き合っています。