アクリル絵の具に、グリッターや蛍光色などを多用した豊かな色彩で表現される、独特の世界感。その鮮やかな配色は、普段アートに触れていない人たちをも惹きつけるような、いきいきとした光を放っています。この「アニマルシリーズ」で海外からも注目され、近年では「時間の表現」という新たなテーマにも挑戦し続ける、唯一無二の兄弟ユニット「フジヨシブラザーズ」の魅力に迫ります。
熊本の自然で育ち、独学で絵画を学ぶ
フジヨシブラザーズは、兄の藤芳太一郎さんと弟の藤芳幸太郎さんから成る兄弟アートユニットで、現在は神奈川県を拠点に活動しています。熊本県熊本市出身で、近くの山や川が遊び場だったという兄弟は、自然の息吹と生物の多様性に触れながら育ちました。
「発色、色彩の感覚は、自然の中で培ってきたものが大きいです。川のせせらぎの光が反射した綺麗さ、新緑の黄緑色の美しさ、山ぶどうの紫色などが原体験として記憶に残っていて、今の作品にも生かされています」
左官職人だった父の影響で、将来ものづくりを仕事にしたいと考えていた兄の太一郎さんは、高校卒業後に独学で絵画を学びはじめ、弟の幸太郎さんも後を追いかけるようにその道に入ります。2人の絵画の勉強方法は、「とにかく描きまくる」こと。1日1点、それぞれが「絵日記」という形で毎日作品を仕上げるルーティンを3~4年続け、独自の技法を確立させていきました。
2人で作ることで生まれる、新しい可能性
合作を始めたきっかけは、兄の太一郎さんが、納期を間近に控えた自身の作品を、弟の幸太郎さんに手伝ってもらったことでした。
「一緒にやったら、『あれ、自分に持っていないラインとか色味、こんなのが来るんだ!』と。面白いな、可能性があるなと思いました」(太一郎さん)
両者に役割分担はなく、打合せをして2人で描きはじめる場合もあれば、どちらかが進めている作品にもう一方が描き加えていく場合もあるそう。リクエストを出すこともあれば、そっとしておくこともある。何千点と2人で制作する中で培ってきた「あうんの呼吸」で、作品の制作は進みます。
「好き嫌いの考えはわりと似ています。いいねって思うところも似ているので、だから作品を完成できるというところもあります」
2004年と2005年の2回に渡り開催した個展「PANOLAMA ISLAND」で、全長100mの巨大絵画を制作して以降、すべての作品を合作で制作しています。2人で取り組むことで、自分の考えになかった作品が出来上がっていく、作りながら新たな可能性がどんどん生まれていくことが面白い、と2人は話します。
「変化」の面白さを描く
そんな2人の代表作がアニマルシリーズ。「PANOLAMA ISLAND」の中に登場した動物への反響が大きかったことから、1つの作品として展開するようになりました。動物には、2人が興味を持っている「変化」の面白さと、アートとの共通点があると話します。
「動物はいろんな地域・環境のなかで、いろんな形態、皮膚であったり、体のつくりだったりを進化させてきたというところがあって、それって環境や時代によって新しいものが生まれていくアートと似ているということを感じていたので、動物をずっと描いていくことは面白いと感じていました」
グリッターや蛍光色を使うのも、「見る角度によって光り方が異なる」という、変化を表現できるからです。
近年は、“時間”という概念を視覚化した抽象画「Accumulate Painting」にもチャレンジしています。絵を描き、削って、その上に透明の絵の具を垂らし、その上に絵を描いて、削っていく。これを何回も繰り返すことで奥行きを出し、何層もの絵を透き通って見せるという、「絵画の空間を広げる」挑戦です。アニマルシリーズと共通しているのは、変化していく面白さ。「変化しないものには興味がない」という、2人の個性が表れています。
心を動かす作品を
2人は作品制作だけでなく、ライブペインティングや壁画、ワークショップ、舞台美術など、さまざまな分野で活動を展開しています。4月13日までは岡山天満屋(岡山県岡山市)で個展を開催しています。
「あまり難しいことを考えずに、自分が好きだなと思う作品があればゆっくりご覧になっていただいて、アートというものを楽しんでもらえればと思います」(幸太郎さん)
「やすらぎだったりうれしさだったり悲しさだったり、いろんな感情があると思うんですけど、そういう心に訴えるような作品を作っていきたいです」(太一郎さん)
カラフルで色彩豊かな、親しみやすい作品たち。いきいきとした「変化」を表現した作品を通して、見る人の思考や心にも「変化」が起きる。それこそが、筆者が感じたフジヨシブラザーズの魅力です。