147年の歴史に幕 閉校記念ソング
広島県東広島市福富町は、里山が広がるのどかなまちです。標高922mの鷹ノ巣山にはブナの群生林があり、クロボヤ峡は春にはシャクナゲの花でピンク色に染まります。「豊かな自然の近くで暮らしたい」と移住者が多いのも特徴です。
福富町に2校ある小学校のうちの1校、東広島市立竹仁(たけに)小学校が、2020年度で閉校となります。全校児童は43人。今年度は卒業生8人を輩出し、147年の歴史に幕を閉じることになりました。
3月28日には、児童、保護者、招待者が学校を訪れ、閉校記念式典が開催されます。そこで披露されるのがオリジナルソング「学校坂にそよぐ風」。福富町在住のフォークデュオ「待夢達(タイムズ)」の竹田勝也さんが作詞し、作曲は竹仁小学校の森田浩司校長が行いました。しっとりとした曲調で、歌詞には福富の象徴である鷹ノ巣山、シャクナゲ、通学路の「学校坂」や「沼田川(ぬたがわ)」といった、児童・卒業生が親しんだ風景が登場します。
※動画は東広島市のWEBサイトから https://www.city.higashihiroshima.lg.jp/school/takeni_sho/shokai/27172.html
閉校記念式典では児童が「学校坂にそよぐ風」を合唱し、地元の有志で結成された「竹小バンド」が演奏を行い、合唱を応援する予定です。小学生も竹小バンドも、それぞれに練習を重ねています。
合唱をサポートする「竹小バンド」
3月21日に行われた竹小バンドの演奏練習におじゃましました。福富町竹仁地区で暮らす音楽好きのメンバー6人が集い、結成された「竹小バンド」。この日の練習には4人が集いました。メンバーのひとり、泉忠文さんが経営するドッグカフェ「オンジーハウス」で、それぞれのメンバーが楽器を持ちより、演奏します。
演奏練習の手伝いのために歌を担当する間所穂乃さんは小学6年生。竹仁小学校最後の卒業生です。
リードギターを担当するオンジーハウスの泉忠文さんは竹仁小学校の卒業生です。1966年度卒業の泉さんが在学中、同級生は38人だったそうです。しばらく広島市で暮らしていましたが2015年に竹仁地区に戻り、オンジーハウスをオープンしました。音楽が大好きで、オンジーハウスでもライブイベントをよく開催しており、音楽好きが集う場ともなっています。
この日は練習用のキーボードでしたが、閉校記念式典当日に「ハモンドオルガン」を担当するのは、整体師の高木茂さん。福富町に移住して2年の高木さんは、広島県内を中心に音楽活動を行うプロミュージシャンでもあります。演奏するハモンドオルガンは軽快な音色とのびやかに続く音が特徴なのだとか。小学生の歌声とどんなハーモニーを生み出すのか楽しみです。
ドラムを担当するのは、フリーランスでミュージックビデオなどの映像制作を行っている井上勝太さん。井上さんも、竹仁小学校の卒業生です。2005年度卒業時、同級生は12人だったそうです。小学校高学年のころから音楽に興味を持ち、学生時代は軽音楽部に在籍していました。音楽活動から離れていたこともありましたが、ドラムは自宅に健在。竹小バンドのメンバーとなりました。
ペルー発祥の四角い打楽器「カホン」と「ツリーチャイム」を担当するのは公務員の間所克茂さん。穂乃さんのお父さんです。「のどかな福富町で暮らしたい」と2010年に家族で移住しました。穂乃さんが泉さんからウクレレを習うようになったのをきっかけに、泉さんと親交が深まり、竹小バンドで打楽器を担当することになりました。楽器は泉さんのものです。
この日は用事のため欠席でしたが、竹小バンドにはあと2人、廿日市市出身で2019年に移住した漆作家の前坂成哲さんと、福富町地域おこし協力隊の教蓮孝匡さんがギターを担当します。
本番まであと1週間と迫ったこの日は、通しての演奏を3回行いました。ウッド調のカフェの店内に、優しい曲と穂乃さんの透き通った歌声が響きます。
「小学生たちがどう歌うかな。最後のバンッを合わせたいね」、「ペースはどれくらいか……、けっこうゆっくりかもしれん」。合唱する小学生を思い描きながら、最終調整を進めています。当日への思いを聞くと「大事な式典だから、絶対失敗したくないなぁ」と泉さん。
小学校は閉校になりますが、応援してくれる地域の大人たちはこれからも身近にいるのです。地元の音楽家たちの演奏に合わせてオリジナルソングを歌う経験は、43人の子どもたちにとって一生の宝物になるでしょう。