「ちいさな芸術祭」が来る人と住む人の“いいね”をつなぐ…廃校がミュージアムになる「山の小さな展覧会」

「ちいさな芸術祭」が来る人と住む人の“いいね”をつなぐ…廃校がミュージアムになる「山の小さな展覧会」
「敬愛する祖父に認められたくて、この地で創作活動をやっているのかも」と話してくれた谷川博史さん。「原博史」の名でアーティスト活動も行っています。

香川県と徳島県の県境に近いまんのう町琴南地区で、現在「山の小さな展覧会」が開催中です。

この展覧会は2017年からスタートし3回目。今年は「魂とヒトガタみらい」をテーマに掲げ、県内外のアーティストの作品を展示しています。会期は3月28日(日)まで。豊かな自然に囲まれた旧琴南中学校を舞台にしたちいさな芸術祭の運営者に活動にかける思いを聞きました。

展覧会を企画運営する谷川博史氏

まんのう町琴南地区に住む谷川博史さん。美大を卒業後、まんのう町を拠点に創作活動を行なってきました。国内外でグループ展や個展を開いたり、企画する展覧会では、テーマに応じてアーティストを選出するなど、自身の創作だけにとどまらず、展覧会のコーディネートなどを通じて現代美術に深く関わってこられた方です。そして現在は香川大学教育学部美術領域の特命教授としても活躍されています。

今回の「山の小さな展覧会」も谷川さんが中心となって出展者を募りました。谷川さんのネットワークで集まったのは県内外在住のアーティスト総勢15組。年齢も出身もさまざまなアーティストの作品がまんのう町の旧琴南中学校に集まっています。

山の小さな展覧会はどのように生まれたか

「地域活性というような大それた考えで始めたわけではなく、私にとって愛着のある琴南地区のイメージアップを図りたいという想いがきっかけでした。来る人に“いいな”と思ってもらうことができ、住んでいる人も“いいよね”と思える何か。私はアーティストとして活動していましたから、その想いと創作活動が交わるところに、展覧会という形が浮かび上がったんです」と谷川さん。

かくして2017年、第一回目の「山の小さな展覧会」が開催されました。第一回目は自然素材を使うアーティストが主体となって、自然のなかで木や土を使ったアート作品を展開。ワークショップも行いました。

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「初めての展覧会。こんな田舎にわざわざ入場料を払ってまで来てくれるだろうかと不安もありましたが、そんな不安を払拭するかのように、連日大勢の人が来てくれて大変賑わいました。これも地域の人たちの力があったから。昔からの友人知人が“大丈夫か?”と声をかけてくれたり、“ここは俺に任せろ”といって私の代わりに動いてくれたり、いろんな人に助けられた思い出が、今も温かく蘇ります」。

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そして2回目の展覧会は、もっと地域の人との関わりが持てるイベントにしたいと、アーティストが街に飛び込んでいくスタイルにしました。アーティストが地元のこども園に行き、ワークショップを体験するものです。

「長い竹の先に布をつけて、それを墨に浸します。そして長い白い紙の上まで持って行って、ゆっくり歩かせる。振り返るとニョロニョロとした筆跡が残るんですね。これは自分のした行為が形となることを体現させたもの。規制にとらわれることなく自由に体を動かすことで、結果として作品になるというのは“創作の原点”ともいえます。これも、子どもたちはもちろん親御さんにも好評でした」。

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ほかにも流木を使ったワークショップなどを行い、2回目も盛況のうちに終了しました。

今回の展覧会の見どころは?

「魂とヒトガタ みらい」をテーマにした第3回目の展覧会。このテーマは人の存在について問いかけます。“魂はどこにあるの?”と誰もが一度は考えたことのある疑問を「魂=精神」「ヒトガタ=人体」「みらい=時間」という切り口で人間の存在に迫ります。

ポスター
ポスター

「コロナ禍で私たちの暮らしは一変しました。自粛が続き、外に出られない状態が続きましたよね。けれどその時間は、自分の内側を見つめ直す時間になったのだと思います。アーティストも同じです。自粛という内向きな時間を経て、表現に至っています。作品の近くにはアーティストの名前だけでなく、作品への思いも書いてもらっています。それを読んで納得するもよし、見て感じたことをそのまま受け止めるもよし。難しく考えず、独自の解釈でいいんですよ。ぜひ作品の多様性に触れてもらいたいと思います」。

谷川さんの「自由でいいんだよ」の言葉に背中を押され、各教室をまわると、さまざまな世界が広がっていました。“不思議”、“なんだろう”、“へぇ”、“うわ!”……

ニンマリしたり、驚いたり、ほっこりしたり、ちょっぴり怖かったり。いろんな作品との出合いに、校舎を出る頃には心がたくさん動いたことが分かります。

山のふもとの廃校を利用した期間限定の美術展。最後に少しだけ作品をご案内します。
コメントは添えませんので、自由に作品を感じてみてください。

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会場:ことなみ未来館(仲多度郡まんのう町中通838)
会期:3/19(土)〜3/28(日)、10:00〜17:00

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