コロナ禍で大人数での宴会はできないとしても、「桜を楽しむ」という花見本来の醍醐味は、今年も各地で味わえるでしょう。特に多くの人が訪れる名所の桜には、その美しさを毎年輝かせるために、裏方さんの1年を通した仕事と愛情があるんです。今年はぜひ、桜を見るときに少しだけ思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
石垣とのコントラストが美しい、西日本有数の桜の名所
岡山県北部の津山城(鶴山公園)は、「日本さくら名所百選」にも選ばれている、西日本有数の桜の名所です。ソメイヨシノを中心とした約1000本の桜が城跡のあちこちに植えられていて、石垣を背景にした迫力満点の景色は圧巻です。また、普段は見上げることの多い桜を本丸から見下ろすこともできます。毎年開催される「さくらまつり」の期間は、夜間ライトアップも幻想的です。
ベテランの跡を継ぎ、町のシンボルを支える
この桜のメンテナンスを中心となって行っているのが、津山市観光協会の松坂晃弘さん(46)。鏡野町の出身で、観光や造園、食品などの業界を経て津山市の観光協会へ。桜のメンテナンスは、その道30年のベテランの後を引き継いで、5年ほどになります。
「手入れが行き届いていないと、花芽が1つの枝に対して2、3芽しかつかないんですけど、管理がしっかりできていると、5、6芽とついてくれます。たくさんボリュームのある桜を咲かせるのが醍醐味ですね。石垣と桜のコントラストを褒めてくださるお客さんが多いんですが、ボリュームがないと映えませんし。」
花が咲くのは数週間と儚い桜ですが、メンテナンスは1年を通して行われます。新芽を詰んだり、肥料をやったり、枯れ枝の剪定をしたり、防除、土壌改良…などなど。地道な作業ばかりですが、手間をかけたらかけた分だけ、美しい花を咲かせてくれるそうです。一方で、史跡ならではの管理の難しさもあると、松坂さんは話します。
「簡単に新しい桜を植えるというわけにはいかなくて。石垣に根が生えてしまうと、根が石垣を押してしまうので、文化的な考えでいくと、石垣の際には植えられないということになります。なので、今ある桜をいかに長持ちさせるのかという点が重要になってきます。」
いつまでも長生きしてもらうために
約1000本の桜のうち7割は明治時代に植えられたもので、樹齢が100年を超えている老木たちです。一般的には、何も手をつけていないと60年程度と言われることが多いソメイヨシノの寿命。毎年元気に花を咲かせていること自体が、松坂さんたちの努力の賜物とも言えます。
全面的な植え替えには大規模な工事が必要になり、今ある木が枯れてしまうと、津山市のシンボルともいえる大迫力の桜が、しばらくの間見られなくなってしまう可能性もあります。そんなことにならないように。毎年桜を楽しみに訪れてくれる人たちのために。栄養を与え、病気から守り、1年でも元気に長生きしてもらうことが、松坂さんたちの目標です。
「ずっと守っていかないといけないと思いますし、僕が管理しているうちは元気でいてほしいですね。(樹齢)150歳までもってくれたらなと思います。」
夜間ライトアップやイベント等が楽しめる2021年の津山さくらまつりは、3月27日(土)から4月11日(日)まで開催される予定です。