和気清麻呂(わけのきよまろ)をご存じでしょうか。名前は聞いたことがあっても、何をした人物か答えられる人は少ないかもしれません。
和気清麻呂といえば、奈良時代末期から平安時代初期の官僚。僧・道鏡が帝の地位に就こうとたくらんだとき、その真偽を今の大分県宇佐市にある宇佐八幡宮(うさはちまんぐう)まで確かめに行った「宇佐八幡宮神託事件」が有名です。みごと、清麻呂は道鏡が天皇の位に就くことを防ぎました。
これにより大隈国(現鹿児島県)に流罪となった清麻呂は、道鏡が仕込んだ刺客に襲われるものの、猪に守られながら、無事に大隈国に到着します。道鏡失脚後は都に戻り、奈良の平城京から京都の平安京へ遷都する際にも活躍しました。
清麻呂の姉、広虫(ひろむし)は、日本で初めて孤児院を開いた人物といわれています。宮中で高い地位についた女官でもありました。
清麻呂の出身地・岡山県和気町にある和気神社の祭神は、清麻呂・広虫・清麻呂の祖6柱・応神天皇です。猪が清麻呂を守ったとされることから、拝殿前には狛亥(こまいのしし)が。また、広虫が83人もの孤児を自らの養子として育てたことから、子宝・安産の御利益があるとされています。
そんな清麻呂・広虫が登場する「宇佐八幡宮神託事件」を題材にした舞台「WAKE~不滅の英雄★和気清麻呂~」が、2021年1月11日までオンラインで公開中です。東京の劇団「歴史新大陸」の第12回公演です。
清麻呂を演じるのは、岡山・倉敷市出身で劇団「歴史新大陸」の局長を務める後藤勝徳(かつのり)さん。
大阪外国語大学在学中、卒業生である作家・司馬遼太郎に興味を持ち、彼の歴史小説を読んだことがきっかけで歴史の世界にのめりこんでいきました。学生時代はギターと歌で表現するミュージシャンでしたが、卒業後、東京で役者の道に進みます。2008年に劇団「歴史新大陸」を立ち上げ、これまで古事記・織田信長・新撰組など日本の歴史を題材に舞台を作り上げてきました。
後藤さんは皇居・大手濠緑地で和気清麻呂像と出会います。東京のビル群を背景に堂々とたたずんでいました。清麻呂のことは知ってはいたものの、「皇居に像があるほどの功績がある人物なのだ」と実感したそうです。戦前は10円紙幣に描かれていたこともあり、日本人にとってより身近な人物だったはずです。後藤さんは和気清麻呂への思いを募らせていきました。
「自分も岡山出身なので、和気清麻呂はずっと題材にしたかったんです。制作を決めたのは、2018年に和気氏の子孫と伝わる半井小絵(なからいさえ)さんと偶然出会ったことがきっかけでした。出会ったその日に、半井さんに出演依頼をするほど、熱意が高まっていました」と話します。半井さんは今回、広虫を演じています。
当初は劇場で公演する予定でしたが、新型コロナウイルスの感染が拡大。「しばらく東京へ公演を見に来てもらうのは難しいのではないか」と考え、制作段階でインターネット配信に踏み切りました。配信する映像は舞台全体だけでなく、複数台の4Kカメラで役者の表情やアクションまで捉えることにこだわりました。
劇場公演で配布しているパンフレットに代わって特設サイトをつくり、用語解説や人物相関図を掲載。歴史の知識がなくても見られる工夫もあります。
後藤さんは「皇居の大手濠緑地に像があるくらい、日本の歴史上で重要な人物とされている清麻呂。でもどんなことをした人なのか知らない人も多いと思います。困難な状況でも信念を曲げずに悪いことは悪いと言う姿勢を持ち続けた清麻呂の姿を見てほしい。特に岡山という地方から日本の歴史をつくった人物が出ていることを知り、『自分も日本を盛り上げるぞ』と思ってくれる人が出てきてくれたら嬉しい。」と話します。
「WAKE~不滅の英雄★和気清麻呂~」のチケットは2,500円。配信期間は2021年1月11日まで。オリジナルのクリアファイルの特典がある「岡山県民限定チケット」も用意されています。