「小豆島初!」4年の歳月を経てまもなくデビューする島仕込みの生ハム 生まれ故郷に貢献する草壁ハム製作所・三好昭浩さんの挑戦

「小豆島初!」4年の歳月を経てまもなくデビューする島仕込みの生ハム 生まれ故郷に貢献する草壁ハム製作所・三好昭浩さんの挑戦
草壁ハム製作所、三好昭浩さん

小豆島で長期熟成生ハムづくりに挑戦している、草壁ハム製作所の三好昭浩さん(59歳)。この4年間、黙々と試作を繰り返してきた。仕込みから完成までにかかる時間は14か月。4年やってもまだ3回目。ようやく納得できるおいしさにたどり着き、2021年3月から本格販売を開始することになった。

生ハムの仕込みは気温が低い冬に行われる。今年も11月から1月まで4回目の仕込みが始まったと聞き、訪ねてみた。

生ハム2:…ハム製作所
生ハム2:…ハム製作所

三好さんは小豆島生まれ。高校まで小豆島で過ごし、東京農業大学進学を機に上京。卒業後は約20年間食品商社に勤め、主に食肉関連の商品開発に携わった。その後独立し、飲食経営等に携わる。しかし、「その土地でしかできないもの、生産者の気持ちに寄り添ったものを作ってみたい」と、東京や神奈川などずっと関東で過ごしてきたが4年前に小豆島にUターンした。

帰った当初は「小豆島といえばオリーブ、醬油。何かそういうものを使った加工品を作りたいと漠然と思っていた」そうだ。島内で食に関する情報を聞いて回るうちに出会ったのが、小豆島の放牧養豚、鈴木農園の豚だった。

生ハム4
生ハム4

「生ハムを作りたい!」と思ったのはあの豚がいたから

鈴木農園は国内でも珍しい循環型の放牧養豚農家。島内の宿泊、飲食施設から出る残飯などを代表の鈴木さん自らが回収し、加熱発酵したものを豚の餌に与えている。豚は耕作放棄地を活用した放牧場でのびのびと育てられ、自由に動き回る、つまり運動量が多いので筋肉質という点でも生ハム向きだ。

サラリーマン時代に学んだ食肉加工の基本知識があったので「とにかくやってみよう」と、すぐに生ハムづくりを始めた。最初は自宅のベランダに肉を吊るして作ったという。とはいえ、数日から1、2週間でできるベーコンやソーセージを作るのとは違い、生ハムは塩漬け→洗浄→乾燥→発酵→熟成という時間を辿る、スローフード。「ハモンセラーノ」と呼ばれるスペインの生ハムには、24か月や30か月という長期熟成もあるくらいだ。

「日本国内には生ハム製造所が30か所くらいあるのですが、どうやらそれぞれに発酵・熟成方法があるようです。製法が確立されているスペインやイタリアとは違って、日本はまだまだ試行錯誤しながらそれぞれの土地に合ったやり方で発酵・熟成させている状況です」

生ハム5
生ハム5

島の風土に寄り添った小豆島仕込み

三好さんの生ハムはスペインやイタリア、そして日本国内の製造方法などを参考に、仕込みから完成まで14か月かけて製造する。これは島の気候風土や、醬油を特産品とする小豆島の醬油麹菌をカビ付けに使用するなど、小豆島ならではの三好さんオリジナル製法。もちろん、現在は保健所の製造許可をとった製造室でつくっている。ちなみに、香川県での生ハムの製造許可は、この「草壁ハム製作所」が初めてだそうだ。

生ハム6
生ハム6

原木(げんぼく=生ハムにする骨つきモモ肉)は、鈴木農園の放牧養豚と、さぬき市の七星(しちせい)食品が生産する香川のブランド豚「オリーブ夢豚」の2種類。仕込みの際に大量に擦り込む粗塩は、瀬戸内海の海塩、発酵を促す菌は小豆島の醬油麹菌、仕上げのコーティングには、贅沢に小豆島のオリーブ農園「高尾農園」のオリーブオイルを使用する。原材料表示は「肉、塩、オリーブオイル」と、実にシンプルだ。

「4年やってもまだ正解がわからない。毎年、気候も変わるので、やり方も変えています。ものづくりはその繰り返しなんですね」。4回目の仕込みは原木50本。回を重ねるごとに「去年よりはいい発酵状態」を実感しているという。

生ハム7
生ハム7

コンセプトは「日本酒に合う生ハム」

昨年仕込んだサンプルを試食した。「醬油麹菌の熟成が肉のタンパク質を旨味成分アミノ酸に分解する」と、三好さんに教えてもらったおいしさの理論を飛び越えて、噛めば噛むほど、しっとりと凝縮感のある濃厚な旨味がじわじわと口の中に広がってくる。三好さんは「日本酒に合う生ハム」というイメージでつくっているという。ポイントは発酵に醬油麹菌を使っている点。麹菌は味噌、醬油、日本酒など、日本の発酵食品に欠かせない菌だ。麹菌由来のつながりを理解すると腑に落ちる。

生ハム9
生ハム9

控えめな三好さんだが、夢は大きい。「いつかミシュラン星付きの飲食店に使ってもらいたい」

そんな実績がひとつの指標になる。また、小豆島で全国の生ハム生産者が集まるイベントや、いろいろな料理人とのコラボイベントなどもやりたいと、夢はいくつもある。

「生ハムという『食』を通じて小豆島の観光産業に貢献したいと思うんです」

島の放牧豚に魅了され、生ハムづくりに夢中になる三好さんはまもなく還暦を迎える。生ハムのむこうに生まれ故郷を愛してやまない気持ちが伝わってきた。

生ハム10
生ハム10

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